婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
そのまま彼女たちの元へ向かう母の姿を見送って、私は再び向さんに向き直り、心の中だけで大きく深呼吸をして尋ねた。


「スマートフォンは大丈夫でしょうか? 故障など不具合がありましたら、こちらまで連絡をください」


「先ほどもオーナーに申し上げましたが、本当に気にしないでください。……むしろ庇っていただいて、お礼を言うのは私の方です。ありがとうございました。読書に夢中になっていて、気づくのが遅れました」


後半部分を小声で話す向さんに驚き、思わず目を見開く。


「ご迷惑をおかけして申し訳ない」


「そんな、水をこぼしたのは私なので……!」


「オーナーにも謝らせていただいて、今日は帰ります」


そう言って、彼は荷物をまとめ立ち上がる。

店内に戻ってきた母に、向さんがお騒がせして申し訳ないと謝罪する。

首を横に振った母は、迷惑をかけたのはこちらだからと謝っていた。

私も母の後ろで頭を下げてもう一度謝罪する。

さらに母は向さんが代金を支払おうとするのを断わって、女性たちに注意した旨を説明した。

ほかのお客様の迷惑になるような行為をした際は、今後来店を遠慮していただくよう伝えたそうだ。

もちろん向さんに無断で撮影した写真は目の前で削除してもらったという。
< 22 / 115 >

この作品をシェア

pagetop