婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
最近の母は父を喪った悲しみでずっと塞ぎ込み、ろくに食事も取らずカフェも長く閉めていた。

妹も父親の温もりを思い出しては泣いている。

目を通すべき書類、判断すべき事柄、家の中の細々した物事、父が亡くなって止ってしまったことが積み重なっていた。

私がしっかり管理せねばと心を奮い立たせて、今日まで必死の思いで過ごしてきた。


『ありがとうございます。皆さん楽しそうなのに、私だけおかしいですよね』


飛行機がやってくるたび、頬を紅潮させ歓声をあげたり、夢中で写真を撮る人々を眺めながらつぶやく。


『いいえ、抱える事情は皆それぞれだと思いますから』


てっきり苦笑して受け流されるかと考えていたのに、思いがけない反応に瞬きを繰り返す。


『俺は飛行機が好きで、パイロットになるのが夢でした。でもいざ岐路に立ったらこのまま進むのが正しいのか、自分の夢を、やり方を押し通すのが正解なのか、この職業が向いているのかさえわからなくなって混乱したまま眺めていました』


まるでひとり言のように淡々と口にする。

突然の告白に若干驚きながらも、耳を傾けていた。


『それは……難しいですね』


詳しい事情を知らない私は安易な返答ができず、ただ自分の率直な感想だけを伝えた。
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