婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
それからも、互いに心に浮かんだ事柄や抱える思いを話していた。

慰め合うわけでもなく、ただ正直な感想だけを口にして。

ふと腕時計に視線を落とせば、帰りの搭乗時間が迫ってきていた。


『すみません、そろそろ行かなくては……あの、私の話を聞いて、色々教えてくださってありがとうございます。本当に突然、色々ご迷惑をおかけして申し訳ないです。私、これからもっとがんばれそうです』


『……もう十分がんばっているでしょう。大丈夫、もっとゆっくりでいい。きっとあなたのお父様もそうおっしゃると思います』


低い優しさの滲む、包み込むような声に胸の奥が切なく締めつけられ、言葉にならない熱い想いがせり上がる。

鼻の奥がツンとしてぼやけた視界を誤魔化すように視線を空に向けた。

彼の真っすぐな発言が私の心の奥底にふわりと優しく根付く。

どことなく後ろ髪を引かれる思いを抱えながら、肩にかけたバッグを抱え直す。

このまま見ず知らずの者同士、別れの挨拶をするのがきっと正しい。


『本当に、ありがとうございました。今後飛行機に乗るときに緊張したら、あなたのように飛行機を真摯に大切に思う人が操縦しているから大丈夫だと考えます』


直接尋ねたわけではないが、彼が口にした様々な内容から操縦士の訓練生ではと思った。

目元しか見えていないのでわからないが、やはり同い年くらいという印象を受けた。
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