婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「でも、お疲れのところご迷惑ばかりおかけして……」


「恋人にその気遣いは不要だ。その話し方も、もし彼に聞かれたら怪しまれる」


穏やかな物言いで、彼は私の目を再び覗き込む。


「待っていて」


柔らかく念押しされて、小さくうなずく。

念のため周囲を気にしつつ、私の連絡先を伝え、空港内の滑走路が見渡せるコーヒーショップで待っている旨を告げる。

彼も自身の連絡先を教えてくれた。

向さんは再度私の体調を確認し、万が一のときは空港内の職員に助けを求めるよう言い残して足早に去って行った。

予期せぬ出来事の連続に理解が追いつかず、とても現実とは思えない。

けれど彼の高い体温と優しい指先の記憶が体中に残っている。

気分の悪さはまだ若干残っているけれど、従弟といたときよりずいぶん楽になっている。

向さんが去った方向に視線を向け、スマートフォンをお守り代わりに上着のポケットに入れて、私も歩き出した。
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