婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
離発着するいくつもの機体と滑走路灯などで鮮やかに照らされた滑走路をコーヒーショップのテーブル席からぼんやり眺める。

遅い時間帯のせいか、店内にあまり客はいない。


「待たせて申し訳ない。具合はどう?」


突如頭上から響いた問いかけに肩が揺れる。

声の方に顔を動かし、急いで立ち上がった。
 
少しくだけた口調なのは、演技を続けてくれているからだろうか。

目の前に立つ私服姿の向さんは、制服とは違う雰囲気で相変わらずカッコいい。

濃いネイビーの長袖襟付きシャツと薄いグレーのパンツが細身の体によく似合っている。

長い手足と整いすぎた小さな顔に思わず見惚れてしまう。
 
周囲に座っていた客たちが彼の姿を見た途端、目を見開き噂話を始める。

彼のファンだろうか。


「帰ろうか」


「え、でも、お話を」


「それも大事だけど顔色が悪いから。コーヒーも飲めてないだろ? 送るよ」


 
テーブルに置いてある少しだけ口につけたコーヒーカップを見ながら、心配そうに口にする。


「いいえ、大丈夫です」


気遣いと優しさは嬉しいが、さすがにこのままは気が引けるし、帰宅しても気になってしまう。


「……じゃあせめてそのカップの中身が減るまで話そうか」


そう言って、彼は自分の飲み物を注文しにレジへと向かう。

そしてカップを手に戻り、私の向かい側の席に腰を下ろす。

カップを持つ長い指と口に運ぶ際の伏せたまつげの長さに視線が引きつけられる。

しばらくお互いにコーヒーに舌鼓を打つ。
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