婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「今、ひとりで自宅に戻るのは危ない。オーナーに……」


「母の心にこれ以上負担をかけたくないので……さすがに瑛斗も実家のカフェには行かないはずです」


店でもめればひかりさんの耳にも入るし、外面のよい従弟は修羅場を見せたくないだろう。


「顔色が少しよくなっていたのに、また悪くなったな」


ほんの少し顔を近づけた向さんが心配そうに告げ、スマートフォンを握りしめたままの私の手に自分の大きな手を重ねた。


「恋人宣言をして、君の従弟をあおった俺に責任がある。まだ彼について聞いていないし、よければ今夜は俺のところで休んでほしい」


「え……?」


言うが早いか彼はふたり分のコーヒーカップを返却し、私の荷物をまとめて手にする。

慌てて立ち上がったとき、足元に自宅の鍵が落ちているのに気づいた。

どうやら先ほどスマートフォンを取り出した際に落ちたようだ。


「そのキーホルダー……」


私が拾った鍵をじっと見つめ、なぜか驚いたように向さんが目を見開きつぶやく。


「三年くらい前に大阪国際空港で購入したんです。お店の方に限定品だって聞いて、妹へのお土産もかねてふたつ購入したんですけど、ひとつはなくしてしまって」


「そうか、そうだったんだ……」


バッグを渡してもらって鍵を入れる間、向さんはなにかを考えているようだった。

けれどそれも一瞬で向さんは素早く私の手を引き、店を出た。
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