婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「ちょ、ちょっと待ってください。いったいどこに……」


「俺の家」


簡潔に答えた彼はやってきたエレベーターに私を連れて乗り込み、一階で降りてターミナルの外に連れ出す。

すれ違う人たちの様々な思いが含まれた視線が痛いが、今はそれどころではない。


「体調が心配だからタクシーで帰ろう」


「だから、そうではなく……!」


私の自宅が難しければ、同じひとり暮らしの親友に頼むかホテルという選択肢だってある。

なぜ向さんの自宅に行くのか、わからない。


「恋人を守るのは当然だから。俺に君を守らせて」


一旦足を止めた向さんが私に向き直り、少し前と同じセリフを口にする。


「なんでそこまでして……助けてくださるんですか?」


「君が俺を助けてくれたから。乗りかかった船だし、困った同僚を放っておけない。続きは帰ったらきちんと話す。今は一緒に来てほしい」


真摯な口調に不安定な心が揺れる。

本当は心細くてたまらないし、ずっとつながれたままの手の温もりに甘えてしまいたくなる。

ほぼ初対面の男性にこんな思いを抱くのも、距離感も間違っている。

同僚とはいえ、よく知りもしない人のところに身を寄せるなんて、いくらなんでも甘えすぎだし、ありえない。

そういえば大阪で妹は、向さんに会えたらいいね、なんて話していたっけ。


……まさか現実になるとは思いもしなかった。
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