婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「よかったら付き合って。もしくは先に風呂に入る? 色々あって疲れただろ」


そう言って、私の指をほどき立ち上がった琉生さんが、リビングルームから出て行く。

一方の私は入浴という単語を必要以上に意識する。

泊らせてもらううえ、今後は夫婦になるのだから過剰に反応する事柄ではないのかもしれない。

けれどいくら昔馴染みだったとはいえ、つい最近まで会話をしたこともなく、多大な迷惑をかけた男性とふたりきりで過ごしている事態と急展開にうろたえ、戸惑ってしまう。

夫婦なら寝食をともにするのが一般的だけど、どういう距離感をもてばいいのだろう。

私から詳細を尋ねるべきなのだろうか。


「蕗?」


ひとりで悶々と迷っている間に、彼が戻ってきていた。

至近距離で名前を呼ばれて、肩が大きく跳ねた。


「ご、ごめんなさい、びっくりして」


「いや、こちらこそ驚かせて悪い。風呂の準備ができるまでよかったら一緒に食べよう」


促されてダイニングテーブルに移動する。

用意を一緒にしようとしたところ、具合が悪いのだから座っているように言われた。

空港で助けてもらってから、なにもかもしてもらってばかりなのが心苦しい。
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