婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「距離を縮めようと望んでくれるなら、少しは触れて構わないか? 夫婦なのに他人行儀すぎたら、不自然に思われるから」


「う、うん、さっきから手もつないでるので……」


お互いにいい大人なのだし、触れ合うのにお互いの感情以外なにか制限があるわけじゃない。 

瑛斗に手を掴まれたときは恐れと嫌悪しかなかったのに、琉生さんに触れられるのは嫌じゃない。


「少しずつ、俺に慣れてほしい」


毛先から手を離した琉生さんが私の耳にほつれた髪をかける。

わずかに頬をかすめた指の感触にドクンと鼓動がひとつ大きな音を立てた。

そのまま熱を維持する頬と速まっていく心音を持て余す。

そして素直に琉生さんの言葉を嬉しく思う自分に動揺する。

私の気持ちや立場を尊重してくれているけれど、彼は本心で触れたいと思っているのだろうか。

恋愛感情はないと言っていた。

当然だ。

幼い頃の友人とはいえ長い間会わず、話してすらいないのだから。

先日の店での再会はノーカウントに等しいし、この状況についていくのがやっとで感情が追いつかない。

ただ瑛斗のような拒否感がないのは不思議で、気持ちが不安定に揺れ動いている。

 
心の片隅に浮かんだ小さな戸惑いを閉じ込め、整った面差しを見つめ返すだけで精一杯だった。
 
その後、簡単な食事を終えて、再び先に入浴するよう促された。

けれど丁重に断わって、一緒に片付けをした。
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