婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「……巻き込んで、迷惑をかけてごめんなさい」


「決めたのは俺だ。俺にもメリットがあるし、大切な妻を守るのは俺の役目だ」


妻、という単語が胸の中にじわりと染みこんで熱をもつ。


「とりあえず明日、蕗の自宅から必要な荷物を運ぼう。それからオーナーに挨拶に伺いたい。オーナーのご都合はどうだろうか」


「母に連絡して、聞いてみます。引っ越しは荷物の整理もあるし、引き払うのが少し先になると思いますが」


頭の中で自室を思い浮かべながら、必要な手続きなどを考える。


「引っ越しも片付けも、手伝うから遠慮なく言ってほしい」


「せっかくの休日にごめんなさい、ありがとう」


礼を告げた私に、琉生さんは軽く首を横に振る。


「じゃあ今度こそ蕗はお風呂に入っておいで。ここはもう大丈夫だから」


「でも……琉生さんのほうが疲れているでしょう? どうぞ、先に……」


「俺のことはいいから。蕗は精神的な負担が大きかっただろ」


 
きっぱり言い切られて、ためらいながらも彼の厚意に甘えた。

案内してもらった洗面所はリビング同様きちんと片付けられており、タオルなどは好きに使うよう言われた。

キャリーバッグから取り出した予備の下着や化粧品などを洗面台の隅に置く。

 
鏡には、化粧が崩れてほんの少し不安そうな表情の自分が映っていた。

求婚された現実にまだ思考が完全に追いつかないまま、浴室に足を踏み入れる。

心に巣くう小さな不安もこのまま洗い流せたらいいのに。
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