婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「俺も風呂に入ってくるから、蕗は先に休んでいて」


ペットボトルの水を渡してくれながら彼が口にする。

廊下の一番奥にある部屋は空き部屋で、時折弟が泊まりにくるため簡易ベッドがあるそうだ。

ちなみにその隣は彼の寝室で、もう一室は本棚や書き物机を置いているらしい。

簡易ベッドは寝心地が悪いから寝室を使うよう勧められて断わった。

さすがにそこまで甘えられない。


「……じゃあ、おやすみなさい」


「おやすみ、気分が悪くなったら遠慮無く声をかけて、電話でもいいから」


どこまでも優しい気遣いにうなずき、奥の部屋に向かう。

どうやら入浴中に準備をしてくれていたようですぐに休めるようになっていた。

至れり尽くせりの状況に深く息を吐く。

ベッドに腰をかけて、スマートフォンを取り出す。

妹から幾つものメッセージと着信があって驚く。

どうやら妹も瑛斗に気づいていたらしく心配してくれていたようだ。

電話をかけ直したがつながらず、大丈夫だと簡潔に現状を綴ったメッセージを送った。
 
それから挨拶の件を尋ねたくて母に電話をかけたが、こちらもつながらなかった。

仕方なく明日カフェに行くとメッセージを送った。

もちろん菫同様の内容も記して。

体を倒した布団はとてもいい香りがして、心が安らぐ。

あんなに不安だったのが嘘のようにいつの間にか私は意識を手放していた。
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