婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
彼女が立ち去りかけたとき、連絡先はおろか名前も聞いていないと気づいた。

尋ねようとしたところタイミング悪く機体が近づき、声がかき消された。

彼女もまたなにか話していたが聞き取れず、彼女が去った後に飛行機のキーホルダーが落ちているのに気づいた。

妹に大阪国際空港限定のキーホルダーを購入したと話していたのを思い出す。

彼女はここが地元ではないのだろうか。

拾い上げたキーホルダーを手の中で握りしめる。

いつかもう一度彼女に会いたい。

そのときまでに副操縦士としてもひとりの人間としてももっと成長していたい。

俺の背中を優しく押してくれた彼女に改めて感謝を伝えたい。

強く決意し、俺はその帰り道、弟と腹を割って話をした。

勘がよい弟は俺の真剣な態度に驚きつつも、きちんと聞いてくれた。

そのうえであっけらかんと家業を継ぐのは苦ではなく、むしろ自分の意思だと告げた。
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