婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
それからふたりで小さなテーブルに向かい合って、順番に婚姻届に記入した。

書いているうちに結婚する現実感が急に襲ってきて、緊張で何度も手が止まってしまう。

先に記入していた琉生さんの手は滑らかに動いていたのに。

震える指をなんとか動かし、失敗せずに書き上げた際は心の中で小さく安堵の息を吐いた。

記念に、と琉生さんが婚姻届と一緒に写真を撮ってくれたときは胸の奥が少しだけ熱を帯びた。

琉生さんの部屋に引っ越す荷物は挨拶の後、もう一度取りに戻ることにして家を出た。

再び彼の車の助手席に腰を下ろす。

私のシートベルト着用を確認した後、車を発進した彼の端正な横顔をそっと盗み見る。

高い鼻梁に長いまつげ、ハンドルを握る骨ばった長い指に視線を奪われる。

こんなに素敵な人と結婚するなんて今もまだ信じられないし、展開の早さにもまだ混乱している。

こんな調子で母や妹、周囲に怪しまれず説明ができるか、今さらながら不安になる。


「どうかした?」


視線に気づいたのか、琉生さんが前を見つめたまま問いかける。


「いえ、その、少し緊張して」

まさか見惚れていたとも言えずとっさに誤魔化す。
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