それは、誰にもわからない。
どちらが素の自分ですか? - 藤原志乃


家の自分と、学校の自分。



「どちらが素の自分ですか?」と訊かれても、きっとすぐに答えることができないだろうと、志乃は考えていた。



先生も親も、大人は何もわかっていない。

志乃の心の内など誰も見ておらず、教師は宿題の提出を急かし、家では親が「勉強をしろ」と圧をかける。


「おい藤原、起きろって」

背中を叩いて起こしてくる男子たちも、まさか志乃の睡眠時間が三時間だとは思わないだろう。


笑える。

「中学受験に失敗したら終わり」だと、志乃は親に教え込まれていた。

それと同時に、「うちにはお金がない」とも。

まるで志乃を洗脳するように、模試で悪い点数を取るたびに言われていきた。


「…ねぇ、藤原さん」


だから志乃は、中学受験生でもないくせに成績がいい水月を、憎たらしく、そして羨ましく思っていた。

彼女…水月が一年生の頃は、正義感が強く頭のいい少女、というイメージしかなかった。

たまたま同じクラスになった一年生から、小学五年まで、一度も同じクラスになっていない。



それでも水月は目立っていた。




誰とも仲良くする優等生。


そのノリの良さ。


それでいて勉強ができるのに、鼻にかけることもない。


よく笑って、時に意見をはっきりと言って、リーダーシップがあるけれど意見を押し付けるわけではない。


英語と国語が得意とはいえ、どの勉学も満遍なく良く、…でもただひとつの欠点は、“運動ができない”こと。


決して、顔が優れているわけではない。



それでも彼女は「一軍」だった。



志乃は考える。



彼女は、「悩み」があるのだろうか。




彼女は、「家の自分」と「学校の自分」、どちらが素の自分なのだろうか。




志乃は、“どちらも違う”が正解だと、自分なりの回答を出した。



クラスの中心で笑う水月を見ながら、あくびを堪えてシャーペンを取り出す。



校則違反のボールペンにシャーペンに、机にはぐちゃぐちゃになって入ったプリント類。



「へー、宿題しないんだ」



集中していたから、だろうか。



皮肉をつぶやく、隣の少女に気づくことができなかった。



「みず、トランプしよー!」

「あ、うん行くいく〜」



隣の少女(深谷水月)に、気づくことはなかった。
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