役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
◇
「メリッサ様。あの大量の金貨、本当によろしかったのですか?」
辺境伯領へ向かう馬車の中、侍女のジェナが用意したジンジャークッキーを頬張るメリッサに、執事のクロードが問う。少し硬めに焼き上がったクッキーは、メリッサの大好物だ。
「叔父様にお渡ししようかしら。稼いだことに変わりはないし」
「え? でも置いてきちゃいましたよね? 回収に向かわせましょうか」
「回収する必要はないわ。……だってアレ、金貨じゃないもの」
きょとんと首を傾げるジェナに、メリッサは小さく笑みを浮かべる。
「あの袋の中身はすべて、公爵家が所有する鉱山の石なの。本物の金貨はちゃんと別で保管しているわ。半年間納めていた分は本物だけど、その倍以上に稼げちゃったし、もう使われちゃっているだろうから回収しなくてもいいかなって」
「ええっ!? じゃああれ、全部石なんですか!?」
「幻覚魔法で金貨に見せていただけ。私が作るポーションの中には幻覚を解くものがあって、今回はそれを魔法に応用したのよ。そろそろ効力が切れて、石に戻っている頃じゃないかしら。短時間しか使えないけど、試してみるものね」
メリッサは基本的な魔法をすべて習得している。その中でも薬学の知識に長けているため、ポーション作りを主な収入源にしていたのだ。借金自体が嘘だったとはいえ、ポーション以外にも妥協せず真面目に稼いでいたのだから、負けず嫌いにも程がある。
「……まったく、メリッサ様も人が悪い。やっていることは彼らと変わりませんよ」
「あら、私はまだ慈悲深いほうだと思うけれど? あの原石に高値がつくのはずっと先の話でしょうけど、捨てるには時期尚早よ」
メリッサが金貨袋の中に詰め込んだのは石だが、その多くは鉱石である。中には小さいものでも、公爵家の借金を一気に返済できるような宝石の原石を混ぜておいたのだ。見つければ儲けものだが、感情的になりやすい義家族のことだ。すでに目もくれずさっさと捨ててしまっているかもしれない。
とはいえ、公爵家が今までしてきた不正の数々は、辺境伯家を通して王家に報告済み。原石の価値が上がる頃に今までの生活のクオリティは保つことが難しいだろう。
「高価な原石をぽいっと捨てられるお嬢様のスタンス……えげつないです」
「彼らはクレイソン男爵家を甘く見すぎた。多少の意地悪は、きっとお父様たちも許してくれるわよ」
クロードとジェナは苦い笑みを浮かべる一方で、本日三枚目のジンジャークッキーを頬張りながら楽しそうに笑う。
意地の悪い公爵家に囲い込まれ、こき使われる日々からようやく解放されたのだ。窮屈な生活を強いられた分、倍にして返した彼女の心は羽が生えたように軽い。
「クロード、これからの予定は?」
「はい。クレイトン男爵家の後継人と商会長との面談、そしてメリッサ様がヴィンセント辺境伯家の養女となるための養子縁組についての書類整理――すべて準備は整っております」
「この短い期間でよくまとめてくれたわね、ありがとう。……さて、またすぐに忙しくなるわ。領地に着いたら皆に伝えてくれる?」
「は、はい! なんとお伝えいたしましょう……?」
ジェナの問いに、メリッサは晴れやかな笑顔で告げる。
「ヴィンセント辺境伯領の、住み心地改革よ!」
「メリッサ様。あの大量の金貨、本当によろしかったのですか?」
辺境伯領へ向かう馬車の中、侍女のジェナが用意したジンジャークッキーを頬張るメリッサに、執事のクロードが問う。少し硬めに焼き上がったクッキーは、メリッサの大好物だ。
「叔父様にお渡ししようかしら。稼いだことに変わりはないし」
「え? でも置いてきちゃいましたよね? 回収に向かわせましょうか」
「回収する必要はないわ。……だってアレ、金貨じゃないもの」
きょとんと首を傾げるジェナに、メリッサは小さく笑みを浮かべる。
「あの袋の中身はすべて、公爵家が所有する鉱山の石なの。本物の金貨はちゃんと別で保管しているわ。半年間納めていた分は本物だけど、その倍以上に稼げちゃったし、もう使われちゃっているだろうから回収しなくてもいいかなって」
「ええっ!? じゃああれ、全部石なんですか!?」
「幻覚魔法で金貨に見せていただけ。私が作るポーションの中には幻覚を解くものがあって、今回はそれを魔法に応用したのよ。そろそろ効力が切れて、石に戻っている頃じゃないかしら。短時間しか使えないけど、試してみるものね」
メリッサは基本的な魔法をすべて習得している。その中でも薬学の知識に長けているため、ポーション作りを主な収入源にしていたのだ。借金自体が嘘だったとはいえ、ポーション以外にも妥協せず真面目に稼いでいたのだから、負けず嫌いにも程がある。
「……まったく、メリッサ様も人が悪い。やっていることは彼らと変わりませんよ」
「あら、私はまだ慈悲深いほうだと思うけれど? あの原石に高値がつくのはずっと先の話でしょうけど、捨てるには時期尚早よ」
メリッサが金貨袋の中に詰め込んだのは石だが、その多くは鉱石である。中には小さいものでも、公爵家の借金を一気に返済できるような宝石の原石を混ぜておいたのだ。見つければ儲けものだが、感情的になりやすい義家族のことだ。すでに目もくれずさっさと捨ててしまっているかもしれない。
とはいえ、公爵家が今までしてきた不正の数々は、辺境伯家を通して王家に報告済み。原石の価値が上がる頃に今までの生活のクオリティは保つことが難しいだろう。
「高価な原石をぽいっと捨てられるお嬢様のスタンス……えげつないです」
「彼らはクレイソン男爵家を甘く見すぎた。多少の意地悪は、きっとお父様たちも許してくれるわよ」
クロードとジェナは苦い笑みを浮かべる一方で、本日三枚目のジンジャークッキーを頬張りながら楽しそうに笑う。
意地の悪い公爵家に囲い込まれ、こき使われる日々からようやく解放されたのだ。窮屈な生活を強いられた分、倍にして返した彼女の心は羽が生えたように軽い。
「クロード、これからの予定は?」
「はい。クレイトン男爵家の後継人と商会長との面談、そしてメリッサ様がヴィンセント辺境伯家の養女となるための養子縁組についての書類整理――すべて準備は整っております」
「この短い期間でよくまとめてくれたわね、ありがとう。……さて、またすぐに忙しくなるわ。領地に着いたら皆に伝えてくれる?」
「は、はい! なんとお伝えいたしましょう……?」
ジェナの問いに、メリッサは晴れやかな笑顔で告げる。
「ヴィンセント辺境伯領の、住み心地改革よ!」