役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 叔父であるオルディン・ヴィンセント辺境伯は、国が誇る武力を備えた騎士団をまとめる『北の軍神』と物騒な異名を持つ一方で、領民を第一に考える心優しい領主として有名だ。
 実力は王家からもお墨付きをもらっており、領民からの支持もとても高い。時折、執務を放棄してはお忍びで市街地にやってくることも日常茶飯事と化しているが、近況を話すのを心待ちにしている者も少なくはない。
 そんな彼が深刻な案件を姪に渡そうとしているとは、さすがのメリッサも驚きを隠せない。

「一つの公爵家を没落への道を辿らせたのです。姪とはいえ、それ相応の対価は支払ってもらおう……というのが旦那様の目的ですよ。メリッサ様」
「うっ……わ、わかっているわよ。離縁は叔父様のお力あってこそだもの。しっかりお返しさせていただくわ」

 離縁を円滑に進めるためにメリッサはあらゆる伝手を頼って調べていたが、どれも滞りなく情報が集められたのは、ヴィンセント辺境伯家の後押しがあったからだ。

 両親亡き後、クレイトン男爵家をどうするか、これからの商会への商談について検討していた最中にコモンズ公爵の悪巧みに嵌められてしまったメリッサは、すぐにオルディンへ手紙を送った。

 以来、コモンズ邸に軟禁されている間は商会を介し、納品物に紛れ込ませてクロードが回収を行っていた。また、耳の良い(・・・・)ジェナが聞き取れる範囲内であれば、メリッサが小声で告げた言葉も一言一句逃さず、情報の足しにしていった。
 こういった徹底したやり取りにより、コモンズ家は誰一人メリッサが裏で動いていることに気付かなかったのだ。
 当時のオルディンは心配で仕方がなかったことだろう。手紙の返信には「無理に動くな」と強く言われていたが、メリッサは黙っていられなかった。

 それは母とオルディンが、コモンズ家と関係のある貴族が辺境領で悪さをしているといった話を偶然聞いてしまったのだ。ここであぶり出せば、クレイトン男爵家の汚名を返上し、辺境伯領の膿を出すきっかけにもなる。

 母が大切にしていた場所をどちらも取り戻す――それが、メリッサの一番の目的だった。

 とはいえ、いくら辺境伯の力があったとしても、大量の資料をひっくり返して経営状況や、借用書の偽造について調べるには人手も時間もかかる。
 そこでオルディンは最短で情報を集める代わりに、メリッサに領地開拓の旗振りを担うことを条件として提示した。
 通称『住み心地改革』。ネーミングセンスが壊滅的だと一蹴したが、開拓の手回し以外にも衣食住を無償で提供されるなど、要約すると「領主の見ている範囲なら好きにしていい」という、メリッサにはメリットばかりの条件だった。当然、受け入れる以外の回答はない。
 そうして無事にコモンズ家との縁を切ってきたのだが、一難去ってまた一難とは、まさにこのことである。
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