役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
ダイニングルームを出て向かったのは、執務室だった。壁一面の本棚に敷き詰められるように本や資料が並べられており、質素ながらも重厚な雰囲気を醸し出す室内は、辺境伯領を治めるオルディンの仕事場である。
もちろん、重要な仕事の内容が多いため、この部屋には盗聴防止の魔法陣が展開されている。最近では魔道具でも同様の機能を発揮できるものもあるのだが、機械音痴なオルディンはもっぱら魔法陣を使用している。
オルディンに促され対面に座ると、早速とある資料を差し出された。
表紙には「ヴィンセント辺境伯領の住み心地改革について」と丁寧に記されている。
メリッサは資料を受け取ると、パラパラと目を通していった。内容はいたってシンプルで、領民たちの悩みを解決していくことが主な内容となっている。
「見たところ、食料不足に悩む地域を発展させるための領地開拓のようですが……なぜ私にこの役目を?」
「適任だと思ったからだ」
「ここは王家に一目置かれるヴィンセント辺境伯領です。私よりも適任者は山ほどいるはずですし、離縁のためにいただいた情報料と比べると、ずいぶんとお優しい内容ではなくて? 本当は、旗振りの他に理由があるのではありませんか」
辺境とはいえ、生活が安定しつつある現状でオルディンが求めているのは「住み心地」という曖昧なもの。領民によって異なるニュアンスに、どう対応しろと言うのだろう。
オルディンはさすが、と小さく微笑むと、メリッサが見ていた資料のあるページを指す。
「お前こそが改革の責任者に適任だと思ったのは一番だが……領地のこの異常事態に、コモンズが関係しているからだ」
資料には、メリッサがコモンズ家の不正を暴くためにかき集めた資料の一つが掲載されている。
それはコモンズ家が管理している商会のリストで、すべて辺境領内で取引をした形跡のあるものばかりだった。
「コモンズの配下にある商会がコソコソと何か企んでいるらしい。現に何度か盗難や詐欺といった被害も起きている。騎士団によって現場を取り押さえられたが、本拠地は見つけられていない。聞き出せたことといえば、集めた金は自分の懐に入れて王家の目から隠していたことくらいだ。今も調査は進めているが、なんだかそれだけではないような気がしていてな、そっちに気を取られてしまって、ここしばらく領民たちの声に耳を傾けられていないのだ」
「あの家はどこまでお金にがめついのかしら……」
メリッサは頭を抱えた。いくら実家の汚名返上するために騙されたフリをして嫁いだとはいえ、義実家がここまで真っ黒だったとは。一度でも籍に入ったことを恨めしく思う。
公爵はともかく、証拠を叩きつけた際の動揺から察するに、マルコムとジェシカは何も知らなかったようだ。その一方で、夫人は動揺し、蒼白な顔色を浮かべていた。二人には王宮からの聴取が行われるだろう。
いずれにせよ、マルコムにはこれまでの負債を返済する義務が発生するため、ジェシカとの結婚は当分先の話になる。
もちろん、重要な仕事の内容が多いため、この部屋には盗聴防止の魔法陣が展開されている。最近では魔道具でも同様の機能を発揮できるものもあるのだが、機械音痴なオルディンはもっぱら魔法陣を使用している。
オルディンに促され対面に座ると、早速とある資料を差し出された。
表紙には「ヴィンセント辺境伯領の住み心地改革について」と丁寧に記されている。
メリッサは資料を受け取ると、パラパラと目を通していった。内容はいたってシンプルで、領民たちの悩みを解決していくことが主な内容となっている。
「見たところ、食料不足に悩む地域を発展させるための領地開拓のようですが……なぜ私にこの役目を?」
「適任だと思ったからだ」
「ここは王家に一目置かれるヴィンセント辺境伯領です。私よりも適任者は山ほどいるはずですし、離縁のためにいただいた情報料と比べると、ずいぶんとお優しい内容ではなくて? 本当は、旗振りの他に理由があるのではありませんか」
辺境とはいえ、生活が安定しつつある現状でオルディンが求めているのは「住み心地」という曖昧なもの。領民によって異なるニュアンスに、どう対応しろと言うのだろう。
オルディンはさすが、と小さく微笑むと、メリッサが見ていた資料のあるページを指す。
「お前こそが改革の責任者に適任だと思ったのは一番だが……領地のこの異常事態に、コモンズが関係しているからだ」
資料には、メリッサがコモンズ家の不正を暴くためにかき集めた資料の一つが掲載されている。
それはコモンズ家が管理している商会のリストで、すべて辺境領内で取引をした形跡のあるものばかりだった。
「コモンズの配下にある商会がコソコソと何か企んでいるらしい。現に何度か盗難や詐欺といった被害も起きている。騎士団によって現場を取り押さえられたが、本拠地は見つけられていない。聞き出せたことといえば、集めた金は自分の懐に入れて王家の目から隠していたことくらいだ。今も調査は進めているが、なんだかそれだけではないような気がしていてな、そっちに気を取られてしまって、ここしばらく領民たちの声に耳を傾けられていないのだ」
「あの家はどこまでお金にがめついのかしら……」
メリッサは頭を抱えた。いくら実家の汚名返上するために騙されたフリをして嫁いだとはいえ、義実家がここまで真っ黒だったとは。一度でも籍に入ったことを恨めしく思う。
公爵はともかく、証拠を叩きつけた際の動揺から察するに、マルコムとジェシカは何も知らなかったようだ。その一方で、夫人は動揺し、蒼白な顔色を浮かべていた。二人には王宮からの聴取が行われるだろう。
いずれにせよ、マルコムにはこれまでの負債を返済する義務が発生するため、ジェシカとの結婚は当分先の話になる。