役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜

 メリッサが馬車から降りると、村人たちは珍しそうにそろそろと顔を覗かせた。
 観光地にも遠く、田舎の村に貴族がやってくること自体珍しいのか、興味本位で集まっているようだが、その多くの者の目はどこか影を落としている。山から引いている水路に沿って、唯一の彩りを魅せる紫色の小さな花びらをつけた花だけが、寂しそうに小さく揺れていた。

「もしや、メリッサ様でしょうか」

 周囲に気を取られていると、突然声をかけられてハッとした。いつの間にか杖をついた老人がメリッサの前に現れていた。

「事前にお手紙を頂戴しておりましたが、まさか本当にいらっしゃるとは……失礼、私がケケ村で長を務めている者です」
「初めまして。辺境伯領主の命により、視察に伺いました。でも普段通りにしていただけると嬉しいわ。皆さんにもそう伝えてくださいますか?」
「かしこまりました。……それにしても、こんな偶然があるのですね」
「偶然?」
「実は、アルフォンス王弟殿下が先程ご到着されたのですよ。まさか王族のかたがこんな片隅の村にやってくるとは思いもしませんでした」

 その名に、メリッサの頬が引きつったのを感じた。
 アルフォンス・エルシャドール。エシャール王国の現国王の弟にして、歴代の王家の中で一番多くの魔力と才能を持ち合わせている重要人物である。
 感情が乏しく、公の場に姿を見せることは多くはないため、自由人で昼行燈などと批判する者もいるが、どれも実力で負けた騎士団員らの戯言だ。
 実際には他国との交渉には積極的にこなすだけでなく、不正疑惑のある貴族の調査も内密に行っており、すでに隠居した先代国王が『知は兄、武は弟』と明言するなど、兄弟で役割をはっきりさせていた。

 村長の案内で畑に向かうと、村人の話を興味深く聞いていたアルフォンスがこちらに気付いた。
 さらりと揺れる白銀の髪に濃い青の瞳は、王家に現れる特徴の一つであり、眉一つも動かさない無表情からは冷たい印象がある。軽装ながらも裾の汚れた濃紺のローブ、腰から下げた長剣からして、一人で各地を視察して回っている最中なのだろう。

「ごきげんよう。王弟殿下におかれましてははじめてお目にかかります。ヴィンセント辺境伯の娘、メリッサでございます」

 想定外の対面に少々声が上ずる。それでもメリッサは、アルフォンスを前に笑みも姿勢も崩さない。

(まさか、こんなところでお会いするなんて……というか、叔父様は王弟殿下が領に来ているのを知っていたのよね? 護衛もつけずに勝手に一人でふらふらさせてんじゃないわよ!)
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