役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
(川の水って、こんな簡単に減るものじゃないわよね……?)

 村人の言う通り、山から引かれた水路の指標は、水面までかなりの差が開いている。これでは水やりをしようとしても一度に十分な量を汲むことは難しい。

「メリッサ様。この土地は、もう死んでしまったのかもしれません。あなたがたが来るまで、村の者が何を試しても変化はなかった。我々が土地の加護に任せきりにしてしまったから、神がお怒りになったのかもしれない」

 村長はまるで、すべてを諦めているような口ぶりで告げる。その目に光はなく、虚ろな表情をしていた。
 辺りを見渡せば、村の建物はいろんな箇所ツギハギで補修されていて、何度も壊れた後が見受けられた。意見の対立、何をしても報われないもどかしさ。八つ当たりがぶつかり合い、建物の一部を損壊するほどの事件にまで発展していると聞いてはいたが、ここまでとは思ってもいなかった。
 集まっている村人たちも居た堪れなくなって、多くの人々が目線をそらした。中にはメリッサを敵視して睨みつける者もいる。

 ――しかし、それが何だ? メリッサには関係ない。

「まだ終わっていないわ。あなたたちがいるもの」
「……え?」
「山から村にかけての水路はどうなっていますか? どこかで障害物が拒んで、水路を遮っているのかも」
「俺も同じことを考えていた。君たちが来る少し前に、騎士団の数名を山に向かわせている」

 言葉を飲み込めない村人たちをよそに、アルフォンスは地図を広げて水路をメリッサに見せた。川は山の深い場所にあり、生い茂った木々の合間を縫うようにして流れてきているため、途中で障害物が塞いでいる可能性も充分にある。

「この山には普段から立ち入ることはありますか?」
「ああ……山菜や薬草を取りに。でも水路の方には魔物の住処があるから、滅多なことがない限り立ち入らないようにしている。そういえば、半年前くらいに衛兵さんが、それこそ山の水路でダガーベアを見つけて退治してくれたんだ。それからは誰も入っていないはず」
「そうだったな。珍しいよな、ラック草が満開の季節は近寄って来ないし、村に降りてきたことは今まで一度もなかった」

 ダガーベアとは、体長三メートルほどの大きな熊の魔物で、大きな口と鋭い牙を持ち、腹が減ると小動物程度であれば一飲みで食べてしまうと言われている。
 しかし、そんな魔物でも天敵が存在する。それが村の内外で自生している、紫色の小さな花弁を複数つけたラック草だ。
 どうやら、その花の花粉がダガーベアには効きすぎてかえって毒になるようで、本能的に近寄ることを避けているらしい。花粉ごときで逃げ出す魔物に人間が太刀打ちできないなんて、と笑い話にされることも多いそうだが、特別鍛えられてもいない一般人は、ダガーベアが腕を振り降ろすだけで数メートル先まで飛ばされてしまうこともある。
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