役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 賑わいを見せる中、村人の一人がずっと黙ったままの村長に声をかけた途端、ぎょっとした声を上げた。
 今まで虚ろな目をしていた村長が、ぽろぽろと涙をこぼしている。

「す、すまない……いや、こんな活気あふれる皆を見たのが久しぶりだったから、つい……」

 突然の不作に水不足、どんな手を尽くしても一向に兆しが見えない日々――それがどれだけ村を治める者としてのプレッシャーだっただろうか。
 喧嘩をする村人の仲介に入ろうとしても、老いた身体では自由がきかず、突き飛ばされて、声を荒げることしかできない。すべてに嫌気がさして「土地なんか枯れてしまえ」と願ったことだってあったかもしれない。
 それが、たった一人の言葉で奮起し、また村全体が一丸となろうとしている。これほどまでに嬉しいことがあるだろうか。

「アンタには色々苦労をかけたからな……しかたねぇよ、俺たちも自分勝手だった。でもさ、俺たちは魔法なんてなくたって、ちゃんと今日まで生きてきたんだ」
「そうさ、辺境伯のお嬢様が、うちの村で作った野菜を一番美味しかったって言ってくれたんだ。魔道具でも一番すげぇって思わせてやろうぜ!」
「皆……っ、ああ、やろう。やってやろう!」

 泣きじゃくる村長の背中を擦ったり、大丈夫だと言い聞かしながら囲うその姿に、メリッサは安堵した。しばらくはまだピリピリした空気は続くかもしれないが、今の関係性があれば大丈夫だろう。確証と言うには曖昧かもしれないが、そんな気がした。

「メリッサ様、アンタの案に乗るよ。こんな楽しいモン、職人の血が騒ぐってんだ!」
「しかし、これを作るのにも一ヶ月はかかるだろう。その間の水は、今まで通り川の水を汲んでくることになるが、仕方がないな」

 散水機作りに専念してもらうには、誰かが水やりを変わらなければならない。大掛かりな制作なだけに力仕事になるため、大半の男衆が駆り出されてしまうことを踏まえると、女子どもで広い畑を水やりするのは一苦労だ。
 すると、メリッサは収納魔法から必要な道具を取り出しながら、片手を大きく上げた。

「私がやるわ! 空いている方、手を貸してもらえないかしら。魔法で水やりをする際に、どのくらい水を上げているか記録表を指標にしたくて」
「それなら私が。毎日水をあげた量と湿り気を記録しているんです。お役に立てるかと……!」

 次々と役割分担が決まっていく。散水機制作チームは正確な寸法を図り、算出してパイプの長さを確定させる一方で、鉱山へ足りない魔石を採取しに向かう。
 村長はジェナとともに情報と進捗を整理し、各地への協力依頼と交渉を担当。たった数時間で決まったチーム分けは、想定より遥かにスムーズに進められているようだ。
 早速メリッサは畑の水やりのため、村人が日々欠かさず記録している表に目を通す。
 地面の水はけだけでなく、天候や気温、湿度まで細かく記されている。また、この記録をつけている村人には魔法を使えるほどの力はないものの、魔力感知に優れているようで、土地の魔力の動きも記録してあった。
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