役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜

 ニルスを乗せた馬車を見送ってから畑に戻ると、メリッサたちに気付いた魔道具職人の一人が、新しい図面を持ってやってきた。
 たった一日で寸法を割り出したようで、複雑な曲げ方をしなければならないパーツを精密に計算した設計図が完成していた。メリッサが描いた設計図とは雲泥の差である。

「素晴らしいわっ! これ、大変だったでしょう?」
「皆が助けてくれたからな。魔石の準備も目処が立ったそうだ。すぐにでも制作に入れるぞ」

 あれから主力メンバーで相談した結果、メリッサの提案通りにステンレス鋼管へ伸縮魔法を付与したうえで、魔石を溶かして混ぜたコーティング剤を塗ったものを地中に埋め、地上に近い面に水やりができるよう畝の間に設置する事になった。試作品ということもあって、コーティング剤にしているが、いずれは魔石を混ぜたパイプを作ることも検討していきたいところだ。
 水を川から組み上げて流す仕組みに関しては、昔からある手押しポンプを応用して、魔石を組み合わせた魔道ポンプを設計した。実は村人の一人が、ずっと前に構想だけは練っていたようで、すでに部品作りに取り掛かっているという。
 他に手が空いている者は、パイプを入れる通り道を作るために畑の畝を整えている。
 どれも順調に進んでいるが、ここで一つ、彼らを悩ませる作業が発生していた。
 メリッサの前に差し出されたのは、地中に埋めるパイプだ。

「ステンレス鋼管の形をどれだけ工夫しても、伸縮と防腐の魔法付与はなくてはならない。ただ、この村にはその魔法が使える人間がいないんです。……メリッサ様、付与をお願いできませんか」
「もちろんよ! ……と言いたいところだけれど、私よりももっと適任の方がいらっしゃるわ」

 そう言ってメリッサが目を向けた先に、村人たちはぎょっとした。
 そこには設計図を見つめるアルフォンスが、ひっそりと手を挙げていたのだ。

「俺がやろう。王族による付与のほうが、土地の魔力と馴染むのが早いはずだ」
「え、いや……そんな、王弟殿下にこんなことをやらせるなんて!」
「こんなこと? 村を守るための行動をこんなこと(・・・・・)で片付けてはいけない。王族は、国に住まう者に手を差し伸べるために存在するようなものだ。……それに、王族を顎で使おうとするご令嬢直々の指名、面白いじゃないか」

 まさか王弟が小さな村に手を貸すなんて、と誰もが思い、辺りが騒然とする。彼らの騒然とした様子にはメリッサも同情していたが、アルフォンスの言い分には納得している。
 王族であるエルシャドール家が持つ魔力は、土地の魔力との相性が良いとされている。どの領地も正しく魔力を使えば、エシャール王国はどの国よりも栄えることができると言われているのだ。

「あくまで御伽噺だけれど、信憑性は高い。しかも付与するのが、歴代最強と謳われる王弟殿下なんだから、きっと大丈夫よ!」
「恐れ多いです、殿下!」と村長らが慌てる一方で、腕をまくりながら畑に向かうアルフォンス。メリッサに縋るような目で村人たちが見てくるが、やる気で満ちている王弟殿下を止めるのは憚られた。
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