役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
それでも魔法の付与が始まれば、全員が彼の実力に息を呑んだ。
アルフォンスの魔法により、ステンレス鋼管は伸縮性を持ち、村人の手によって尺度や曲がり具合を調整されていく。ちょうどそこへ畑の畝を整理していた者たちも合流し、アルフォンスが浮遊魔法で設置作業まで受け持った。
力仕事ではあるが、ある程度重さを軽減している事もあって、スムーズに作業が進んでいく。
彼らの様子を離れたところで見守っていると、燕尾服に戻ったクロードがこそっとメリッサに告げる。
「これでアルフォンス殿下の信頼度は上がりますし、王弟が関わっているとなればケケ村で悪さをしようとする輩もいなくなるでしょう」
「ふふっ、そうね。殿下も楽しそうだわ」
「しかし、旦那様からはお叱りを受けるかもしれませんよ。大切な王族のお方なのですから」
「あら、私は一切強要していないわ。それは殿下も同じだし、国を守る者としての義務を果たしているだけよ」
現国王の人当たりの良さに比べると、冷淡な印象の強いアルフォンスは誤解を招きやすい。こうやって自ら国民たちと接点を持つことは以前から考えていたことだろう。でなければ、「何かできることもあるかもしれない」などと口にすることはないはずだ。
王族と平民。雲泥の差を持ってしても、同じ血の通った人間である。この関係が当たり前で助け合える存在になれるのだと、無邪気に笑う村人たちと少しばかり口角の上がったアルフォンスの姿を見てメリッサは微笑ましく思った。
それから一ヶ月、メリッサはケケ村に拠点を置いて他の地域の状況を確認しながら、村の魔道散水機作りに携わった。
しばらくして、アルフォンスが別件で村を離れなければならないため、領都から応援要員が到着した。複数名いる中には、ニルスの代わりに配属された辺境騎士団員もいる。
すると、とある見慣れた姿を見つけて、メリッサは声をかけた。
「メリッサ、久しぶりだね!」
「カイン、王都から遠路はるばる来てくれてありがとう」
「かしこまらないでよ。僕らは友人だろう?」
そう言ってウインクをしたのは、王宮の文官であり魔術師のカインだ。
彼は商会を通じて文具や魔道具の話で意気投合した友人で、コモンズが偽造した借用書の解明に協力してくれた文官である。
メリッサが辺境領に来てからも手紙を通じてやり取りはあったが、顔を合わせるのは久しぶりだった。焦げ茶の癖毛に丸メガネと一見地味な容姿ではあるが、王宮内でトップクラスの魔法の使い手だと称賛されている。今回はメリッサの希望で、王都から来てもらったのだ。
「元気そうでよかった。これでも心配していたんだよ」
「カイン……」
「カイン・ゲイザー。君が来たのか」
久々の再会に水を指すように、二人の間にアルフォンスが入ってきた。旅支度を整えて戻ってきたようで、ギラリと冷たく光る青い瞳がカインに向けられる。
「これはアルフォンス殿下。ご機嫌麗しゅう。僕では不満でしょうか」
「いや、君には勿体ない事案だと思っただけだ」
「友人のピンチに駆けつけられない無能はいりませんから。早速引き継がせていただきます」
一瞬、二人の間に火花が散ったように見えたが、踏み込んではいけないような気がしてメリッサはそっと目を逸らした。
しかし、すぐに逼迫した空気は解かれ、アルフォンスはカインに引継ぎしていく。
アルフォンスが鋼管に付与した魔法はあっという間に土地の魔力と馴染み、上手く機能しているようだ。細かい補正は魔術師がフォローする形になる。
一通り共有され、状況を把握したカインは感心したように小さく唸った。
「それにしても、いつ見ても殿下の付与は丁寧ですね。メリッサの立案だからですか?」
「彼らが付与に失敗しても、多少のことで機能しなくなっては困るからな。それでは、後は頼む」
そう言ってアルフォンスは荷物を持つと、村の出口に向かって歩き出した。その後ろ姿を見つめながら、メリッサは呟く。
「本当、いい人ね……」
「……僕もそう見えるように頑張ろっと。それじゃ、始めるよ!」
アルフォンスの魔法により、ステンレス鋼管は伸縮性を持ち、村人の手によって尺度や曲がり具合を調整されていく。ちょうどそこへ畑の畝を整理していた者たちも合流し、アルフォンスが浮遊魔法で設置作業まで受け持った。
力仕事ではあるが、ある程度重さを軽減している事もあって、スムーズに作業が進んでいく。
彼らの様子を離れたところで見守っていると、燕尾服に戻ったクロードがこそっとメリッサに告げる。
「これでアルフォンス殿下の信頼度は上がりますし、王弟が関わっているとなればケケ村で悪さをしようとする輩もいなくなるでしょう」
「ふふっ、そうね。殿下も楽しそうだわ」
「しかし、旦那様からはお叱りを受けるかもしれませんよ。大切な王族のお方なのですから」
「あら、私は一切強要していないわ。それは殿下も同じだし、国を守る者としての義務を果たしているだけよ」
現国王の人当たりの良さに比べると、冷淡な印象の強いアルフォンスは誤解を招きやすい。こうやって自ら国民たちと接点を持つことは以前から考えていたことだろう。でなければ、「何かできることもあるかもしれない」などと口にすることはないはずだ。
王族と平民。雲泥の差を持ってしても、同じ血の通った人間である。この関係が当たり前で助け合える存在になれるのだと、無邪気に笑う村人たちと少しばかり口角の上がったアルフォンスの姿を見てメリッサは微笑ましく思った。
それから一ヶ月、メリッサはケケ村に拠点を置いて他の地域の状況を確認しながら、村の魔道散水機作りに携わった。
しばらくして、アルフォンスが別件で村を離れなければならないため、領都から応援要員が到着した。複数名いる中には、ニルスの代わりに配属された辺境騎士団員もいる。
すると、とある見慣れた姿を見つけて、メリッサは声をかけた。
「メリッサ、久しぶりだね!」
「カイン、王都から遠路はるばる来てくれてありがとう」
「かしこまらないでよ。僕らは友人だろう?」
そう言ってウインクをしたのは、王宮の文官であり魔術師のカインだ。
彼は商会を通じて文具や魔道具の話で意気投合した友人で、コモンズが偽造した借用書の解明に協力してくれた文官である。
メリッサが辺境領に来てからも手紙を通じてやり取りはあったが、顔を合わせるのは久しぶりだった。焦げ茶の癖毛に丸メガネと一見地味な容姿ではあるが、王宮内でトップクラスの魔法の使い手だと称賛されている。今回はメリッサの希望で、王都から来てもらったのだ。
「元気そうでよかった。これでも心配していたんだよ」
「カイン……」
「カイン・ゲイザー。君が来たのか」
久々の再会に水を指すように、二人の間にアルフォンスが入ってきた。旅支度を整えて戻ってきたようで、ギラリと冷たく光る青い瞳がカインに向けられる。
「これはアルフォンス殿下。ご機嫌麗しゅう。僕では不満でしょうか」
「いや、君には勿体ない事案だと思っただけだ」
「友人のピンチに駆けつけられない無能はいりませんから。早速引き継がせていただきます」
一瞬、二人の間に火花が散ったように見えたが、踏み込んではいけないような気がしてメリッサはそっと目を逸らした。
しかし、すぐに逼迫した空気は解かれ、アルフォンスはカインに引継ぎしていく。
アルフォンスが鋼管に付与した魔法はあっという間に土地の魔力と馴染み、上手く機能しているようだ。細かい補正は魔術師がフォローする形になる。
一通り共有され、状況を把握したカインは感心したように小さく唸った。
「それにしても、いつ見ても殿下の付与は丁寧ですね。メリッサの立案だからですか?」
「彼らが付与に失敗しても、多少のことで機能しなくなっては困るからな。それでは、後は頼む」
そう言ってアルフォンスは荷物を持つと、村の出口に向かって歩き出した。その後ろ姿を見つめながら、メリッサは呟く。
「本当、いい人ね……」
「……僕もそう見えるように頑張ろっと。それじゃ、始めるよ!」