役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 資料を整理していたメリッサのもとに、魔道具作りに先陣を切っていた一人が駆け込んできた。
 ところどころ濡れていたり、泥が跳ねて服や頬が汚れているのは、つい先程までポンプとパイプを繋ぐ作業の調整をしていたからだろう。
 メリッサは作業を中断させ、ともに畑へ向かう。畑にはほとんどの村人たちが集まっており、魔道散水機の完成を心待ちにしていた。
 川から橋に沿うように繋がったパイプが一度地面へ潜ると、そのまま畑の畝に沿って伸びている。スイッチを入れると等間隔に設置されたスプリンクラーヘッドが地上に顔を出し、散水が始まる仕組みである。
 川の水を吸い上げるポンプの制作は少々難航していたが、試行錯誤を繰り返し、村人たちの手によって完成とこじつけることができたそうだ。

 メリッサは魔力を視力に集中し、欠損箇所がないか、魔力のほころびがないかといった最終確認をしていく。やはりアルフォンスの魔力と土地の魔力が上手く馴染み、綻びは見当たらない。
 一通り問題ないことを伝えると、村長は嬉しそうに笑った。

「これから放水します。メリッサ様、よかったらスイッチを……」
「いいえ、気持ちだけ受け取っておくわ。この大仕事を裏でしっかり管理していたのは村長(あなた)よ。最後まで役目を果たしなさいな」
「そうだな。頼むよ、村長!」

 メリッサが村長の背中を押すと、周囲も揃って村長にと熱いエールを送る。
 村長がスイッチの前に立つと、わくわくとした好奇心が疼く一方で、緊張した面持ちに思わず全員が息を呑んだ。深呼吸を何度か繰り返し、村長は遠くで見ている村人たちにも聞こえるよう、声を張り上げる。

「それでは、行くぞ……三、二、一!」

 カウントに合わせ、村長が一気に水を吸い上げるポンプを開ける。それと同時に畝の間から細いスプリンクラーヘッドが立ち上がった、
 そして一斉に回り出すと、汲み上げた水が出てきて、畑に向かって散水を始めた。ところどころ上手く水が行き渡っていないのか、場所によってはパイプの調整が必要のようで、村人が見つけるとすぐに微調整を行っていく。
 水圧が安定してくると、しばらくして散水機は滑らかに動き出し、均一に散水できるようになり、乾いた土湿り気を帯びていく。潤った葉は太陽の日差しが降り注いだからか、はたまた土地の魔力か。青々とした葉を広げた作物たちが一斉にきらめきを放った。
 それは、魔道散水機が無事稼働し、畑に水が行き渡ったという証拠。
 その瞬間を目撃した全員が歓喜の声を上げ、互いに喜びを分かち合った。

「やった……やったぞ、成功だ!」
「うわあああ!! できたんだ、こんな俺たちでも、できたんだ!」

 中には涙を流す者もいて、メリッサはホッと胸を撫で下ろした。その中の一人――畑の水やりの記録をこまめにつけていた村人が言う。

「メリッサ様、ありがとうございます。皆で何かを成し遂げたことが、ここ数年でなかった事もあって、これまでのことすべてが今日報われた気がします」
「私は何もしていないわ。……そうだ、今はレタスを育てているのよね。収穫したら、真っ先に領都の辺境伯家の屋敷へ送ってくれる?」
「はい……っ!」

 スプリンクラーヘッドが回り続ける畑へ目を向ける。そこへ小さく出来た虹を見つけたメリッサは、少し先の明るい未来を思い浮かべるのだった。
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