役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
「あのね、王弟殿下にそんなお使いみたいなことをさせられるわけがないでしょう。商会の仕入れじゃないし、ホイホイお願いできるほどの信頼関係も築いていないのに」
「でもケケ村では魔力付与に協力的でしたし、村の皆さんとも楽しそうに交流してくださったではありませんか。お手紙も途切れていませんし、殿下も『住み心地改革』を掲げたお嬢様の活躍に一目置かれているのだと、ジェナは思いますよ?」

 ケケ村での一件を王宮に詳らかに報告すると、「王弟殿下になんてことを!」と重鎮たちから批判の声が上がったらしい。
「らしい」というのは、メリッサが後処理の関係で戻るのが遅れたため、代わりにオルディンがお叱りを受けたため、聞きかじった話となる。
 彼は苦笑いを浮かべ、この後どうしようかと考えあぐねていたが、同席していたアルフォンスが一方的に黙らせた。あろうことか、「自分が手を貸したのはメリッサ嬢の改革に興味があったからだ」と堂々と宣言したそれを多くの重鎮たちは勘違いしたようで、以来メリッサは「貴族潰しの出戻り令嬢」から「王弟殿下のお気に入り」の噂にすり替わり、周囲からの注目度が右肩上がりになってしまったようだ。

 メリッサにとって、その評価は今後の改革を行っていくうえで風当たりが強くなるだけだが、ヴィンセント辺境伯領にとってみれば、王弟が直々に改革に携わっていることが王家の信頼度に繋がるため、オルディンにとっては一石二鳥だったようだ。
 それ以降、アルフォンスはオルディン宛の手紙とともに、改革に役立てて欲しいとメリッサに宛てた内容の手紙を同送するようになった。近況が記された文面は少なく、ほとんど報告書のようなものだが、詳細に書かれているそれに幾度となく助けられている。

「それはそれ、これはこれなの。確かに魔道具作りを手伝わせたのはよくなかったけど……いくら何でも根に持ちすぎじゃない? 村の野菜も治安も良くなって万々歳!で見逃してほしいわ」
「お嬢様、もしかしてそれは巷で噂の『面白ぇ女』というものではありませんか!?」

 ジェナは最近、領都でよく読まれている恋愛小説にハマっているようで、その中にあった近しいシチュエーションにぱあっと目を輝かせる。メリッサは怪訝そうに眉をひそめたが、反論するのも面倒で軽く流し、再び古書に目を向けた。

(でも、ジェナの案も捨てがたいのよね……)

 メリッサがデーツに興味を持ったきっかけこそ、アルフォンスの手紙なのだ。
 彼は初めて見たものをイラストにしたうえで細かく記載してくれるのだが、最近届いた手紙の一通にデーツが描かれていた。「君の役に立てるのなら」と締めくくられた言葉には、メリッサへの期待が込められているようにも感じた。

(それはそれで荷が重いけれど……殿下が辺境領を気に入ってくださっているのは伝わってくるし、おそらく叔父様への手紙も報告書のようなものだったから、あれがきっと通常なのだわ)
「殿下とお嬢様のカップリング……まるで物語のお話ですね! ちなみにお嬢様は、殿下のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
「少なくとも、あなたの言葉は離縁直後の主人に向けるものではないわね」

 ジェナのキラキラした顔に目もくれず冷たく一蹴する。行き過ぎた内容ではあるが、長年友人のように連れ添ってきた相手ということもあって、ジェナはクスクスと笑って返す。
 そもそも、貴族社会が今後変わらない限り、世の貴族令嬢が胸を焦がす恋を経て結婚するなど、夢のまた夢。その中にはきっと、婚約者よりも愛人を選び、真実の愛などと二人の世界に浸る盲目的なものも存在するわけで、メリッサは思い出すだけでお腹いっぱいである。

(結婚ね……うん、傍観者のほうが私は性に合っているのかもしれない)

 恋愛結婚だったと聞く両親のことを思うと、手の届かない架空のものだと感じるのだった。

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