役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 そんな穏やかな日々を送っていたある日、メリッサに来客があった。
 元はオルディンに相談したいと願い出ていたようなのだが、ざっくりとした相談内容を聞いたところ、メリッサが適任だと判断されたようだ。

 クロードに案内されて応接の間に通されたのは、領都に近い場所で林檎や葡萄、桃といった果物を主に取り扱う果樹園を営むクラム男爵夫妻。ここ数年で代替わりをしたこともあってか、二人はともに三十代にもかかわらず老け込んだ様子だった。
 当主でも積極的に農作業をこなすジョンは、卸したばかりの紺色のジャケットに身を包み、白い手袋で手元を隠している。
 妻のソフィアは、ボロボロの紙の束を大切そうに抱えている。どこかおどおどとしているのは、緊張しているからだろうか。

「改めまして、メリッサ・ヴィンセントと申します。領主様がお二人から直接聞いて欲しいと言われていますが、直接聞いてくれとのことで、詳細は伺っていないのです。今日はどのようなご相談かしら?」
 メリッサが二人をソファに座らせ、優しく問うと、ジョンが申し訳なさそうに口を開いた。

「お時間をいただき感謝申し上げます。実は、運営している果樹園のある一角にコロンの木が一本育っていたのですが、つい先日、複数存在することがわかりまして……」
「あら。それは大変ね」

 なぜこの夫婦が後ろめたさを滲み出していたのか、メリッサは話を聞いて納得した。
 コロンとは、手のひらサイズの林檎の見た目で、ヤマモモのような甘酸っぱさが特徴的な果物の一種だ。
 ここ数十年の間に食用として国内へ入ってきた外来種なのだが、特有の酸っぱさと渋み、青臭さを持っているため、加工に手間と時間がかかる代物だった。
 それだけでなく、花をつけてから実になるまでのスパンが短く、年に何度も花をつけては大量の実を成すため、収穫するペースが昨今の人手不足により間に合っていない。
 よって、エシャール王国の多くはこの実を厄介者として毛嫌されている。果樹園を運営している者であればコロンの実が成る木を植えるのは避け、見つければすぐに伐採といった、徹底ぶりだ。
 メリッサも過去に誤って生の実を食したことがあるが、熟されていてもとても酸味が強く、青臭くて飲み込むのもやっとだった。
 繁殖力が高すぎて消費が出来ない、食しても美味しくない。そんな厄介者をどう処理していくか、国を上げて対策を検討している真っ只中だ。
 しかし、この夫妻は代々果樹園を営む貴族一家である。なぜ今になってコロンの木に気付いたのか。メリッサにはあまりにも遅すぎるような気がしてならなかった。

「あなたの果樹園ではたくさん果物を栽培しているでしょう。苗木の段階だと林檎と見分けをつけるのが大変だと聞くけれど、植える段階で気付かなかったの?」
「我が家は代々果樹園を営んできた家系です。林檎とコロンの苗木を見間違えるはずがないがありません。……しかし、昨年から雇っていた作業員の一人が、コロンの木だとわかったうえで植えていたようなのです。ちょうどその頃、先代である親父たちから引き継いだばかりだったこともあり、我々はそこまで手が回らなくて……それが発覚したのは、コモンズ家が王家の監査に入った、つい最近のことです。作業員が高飛びして行方をくらませました。探していたところに、園の裏の隠れた場所でコロンの実が大量に地面に落ちていて……」

 ジョンはすぐにオルディンに事情を説明し、騎士団が作業員の捜索を開始。ちょうどサーライト王国へ向かう途中で確保され、これもコモンズの指示だったことが発覚した。

「コモンズ……ああもう、なんでこんなところまで……」

 ケケ村でも同じように元義実家が絡んでいる事実を知らされ、メリッサは目眩がした。ここまで来ると、彼らはもう不幸を呼び込む存在としか思えない。
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