役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 男爵家が所有するクラム果樹園は、屋敷から三時間ほどかけて馬車を走らせた場所にあった。
 領都の外れといっても、広大な土地を持っていることもあって、果樹園としての広さは申し分ない。この時期は葡萄と桃が収穫時期で、もう一ヶ月待つと林檎の収穫が控えている。
 汚れてもいいようなシャツとトラウザーズ姿のメリッサが案内されたのは、果樹園の中でも端に置かれている倉庫の裏手だった。倉庫には収穫時に使用する魔道具や籠が置かれているが、用がなければ裏手まではほとんど人が立ち入らない場所だという。
 果樹園は基本的に日当たりがよく、排水性や風通しの良い傾斜地や砂壌土といった場所が適していると言われている。この倉庫裏はあまり条件を満たしていないのだが、皮肉なことに土質を選ばないコロンの成長に支障はなかったようだ。
 倉庫の裏へ足を踏み入れると、大柄の男性の背丈ほどの高さにまで伸びた木々が不規則に並んでおり、中には小さな実をいくつも実らせていた。

「……ちょっと異常じゃないかしら? 普通はこうはいかないわよね?」
「仰るとおりです。おそらくそれは、辺境伯領の土地が持つ魔力が関係しているかと思われます」

 クラム男爵家は代々、土地の魔力と果樹の持つ魔力を均等にし、無理のない品質作りを目指すために魔力付与を己の魔力を使って調整する技法を受け継いでいる。
 今まで卸してきた果物はすべて魔力の微調整によって品質が保たれており、コロンが植えられていても、見つけさえいればすぐに土地の魔力からの供給を止めることが可能だった。
 しかし、今回は発見が遅れただけでなく、男爵家以外の人間の手で植えられたものだったこともあり、調整が上手くコントロールできず、放置状態となってしまったのだ。

「唯一の良いところは、実に虫がつきにくいところですな。これも……うわあっ!?」

 敷地を案内している最中、突然ジョンが悲鳴を上げて立ち止まり、何かを払うように大きく腕を振り回した。

「あら、大丈夫?」
「え、ええ! 虫が少々……ちょっと驚いただけでして……っ、クソ!」

 振り回した手に虫が当たって地面に叩きつけられると、すかさずダンダン!と踏みつけた。
 しばらくし荒い呼吸を整え、すぐにポケットから取り出した新しい手袋をはめると、何事もなかったように取り繕った。

「お見苦しいところを見せてしまいました。どうぞこちらへ」
「は、はぁ……」

 ふと、彼が踏みつけ地面に埋まりつつある虫の死骸に、メリッサは顔をしかめた。
 この様子にソフィアは何も言わず、ただ黙りこくっている。

(この夫婦、何かあると思っていたけれど、こういうことが日常茶飯時なのかしら)

 しかし、家庭内の問題に無関係な自分が介入するべきではないことは充分理解している。メリッサは引き続き園内の視察を続け、一周見て回ったところで、あることに気付いた。辺境領全体に流れている土地の魔力が、この果樹園内の端から端まで一定に保たれているのだ。
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