役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
「クラム男爵家の精密な魔力のコントロールには驚くばかりだわ」
「ええ! 我が家の伝統ですので」
「なるほど……でも、ケケ村では豊かにするために活用していた土地の魔力が、ここでは仇となっているのね。クラム男爵夫人――いいえ、ソフィア。あなたはこのコロンの実をどうしたいのかしら?」
「わ、私ですか?」
突然の問いかけに、ソフィアはビクッと肩を震わせた。まさか自分に聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。それはジョンも同様で、慌てたようにメリッサに言う。
「失礼ですが、家内は仕事について何もわかっていません。私が代わりに……」
「私は彼女に聞いているの。あなたは黙ってくれる? ――それで、ソフィア。土地の魔力の制御は難しいけれど、コロンの木を根絶やしにするための魔法はいくらでも存在するわ。そんな私に、あなたは何を望むのかしら」
メリッサはおろか、さすがの王族の人間でも、土地に現存する魔力を一方的に止めることは難しい。そのため、今回の件を解決するに必要な工程は、どうしても限られてしまう。
たとえば、コロンの木を燃やすなどして根っこから根絶やしにする。種が一つでも残っていればすぐそこから芽を出してしまうが、燃やして灰になれば再び芽を出すことはなく、被害は抑えられるはずだ。抜いた木々は伐採して薪にすることもできる。
しかし、環境に良いかと言われたら怪しいところだ。一歩間違えれば、異変だと勘違いした土地の魔力に悪影響を及ぼしかねない。
するとソフィアは意を決して口を開いた。
「私は……私の、考えとしましては、すべて伐採するのではなく、少し残しておきたいのです」
「はぁ!? お、お前、そんな寝ぼけたことをまだ言っているのか!?」
「できるはずなんです!」
慌てるジョンを遮るように、ソフィアは震える手をぎゅっと握って抑えながら続ける。
「コロンの実は、林檎やヤマモモと同様に、食用として活用できるはずなんです。本来の甘さを引き出すことができれば、商品として売り出して、果樹園の維持費も賄えます」
「食品として売りに出す……確かにそれが最善だと思うけれど、目星はついているの?」
「生食が難しくても、加工すれば食べられます。……私の生家は、小さいですが輸入業を営むナック子爵家で、その三女として育てられました。幼い頃に父が取引先からもらったコロンの実で作ったジャムがとても美味しかった……だから、一概にコロンの実を根絶やしになんて、私にはできません!」
ジョンの言葉を遮ってまで、ソフィアは必死にメリッサに訴える。その真剣な表情は、何かに縋るような、力強くも不安げな色を浮かべていた。
「いい加減にしろ! 大体、ジャムなんて砂糖をふんだんに使う高級品じゃないか。そんなものを買う余裕なんてない。……まったく、妙な教養を得た女はなんて自分勝手なんだ。これだから魔力なしは……」
「無礼は承知のうえです! 私はクラム家のことを」
「黙れ! この――っ!?」
しつこく訴えようとするソフィアに嫌気が差したのか、ジョンがバッと手を上げると、途端にソフィアは身を固くした。振り下ろされる――しかし、痛みは一向にやってこない。
ソフィアが確かめると、ジョンの後ろに無表情のクロードが立っており、振り上げたジョンの腕を掴んで、一気に捻り上げた。
「な、何する……いてててっ!」
「一度言ったことは守ってくれなきゃ駄目よ。私は今、彼女とお話しているの」
反動でその場に押さえつけられたジョンを見下ろしながら、メリッサは告げる。その目に光はなく、静かな怒りが滲み出ていることにようやく気付いた。
「ええ! 我が家の伝統ですので」
「なるほど……でも、ケケ村では豊かにするために活用していた土地の魔力が、ここでは仇となっているのね。クラム男爵夫人――いいえ、ソフィア。あなたはこのコロンの実をどうしたいのかしら?」
「わ、私ですか?」
突然の問いかけに、ソフィアはビクッと肩を震わせた。まさか自分に聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。それはジョンも同様で、慌てたようにメリッサに言う。
「失礼ですが、家内は仕事について何もわかっていません。私が代わりに……」
「私は彼女に聞いているの。あなたは黙ってくれる? ――それで、ソフィア。土地の魔力の制御は難しいけれど、コロンの木を根絶やしにするための魔法はいくらでも存在するわ。そんな私に、あなたは何を望むのかしら」
メリッサはおろか、さすがの王族の人間でも、土地に現存する魔力を一方的に止めることは難しい。そのため、今回の件を解決するに必要な工程は、どうしても限られてしまう。
たとえば、コロンの木を燃やすなどして根っこから根絶やしにする。種が一つでも残っていればすぐそこから芽を出してしまうが、燃やして灰になれば再び芽を出すことはなく、被害は抑えられるはずだ。抜いた木々は伐採して薪にすることもできる。
しかし、環境に良いかと言われたら怪しいところだ。一歩間違えれば、異変だと勘違いした土地の魔力に悪影響を及ぼしかねない。
するとソフィアは意を決して口を開いた。
「私は……私の、考えとしましては、すべて伐採するのではなく、少し残しておきたいのです」
「はぁ!? お、お前、そんな寝ぼけたことをまだ言っているのか!?」
「できるはずなんです!」
慌てるジョンを遮るように、ソフィアは震える手をぎゅっと握って抑えながら続ける。
「コロンの実は、林檎やヤマモモと同様に、食用として活用できるはずなんです。本来の甘さを引き出すことができれば、商品として売り出して、果樹園の維持費も賄えます」
「食品として売りに出す……確かにそれが最善だと思うけれど、目星はついているの?」
「生食が難しくても、加工すれば食べられます。……私の生家は、小さいですが輸入業を営むナック子爵家で、その三女として育てられました。幼い頃に父が取引先からもらったコロンの実で作ったジャムがとても美味しかった……だから、一概にコロンの実を根絶やしになんて、私にはできません!」
ジョンの言葉を遮ってまで、ソフィアは必死にメリッサに訴える。その真剣な表情は、何かに縋るような、力強くも不安げな色を浮かべていた。
「いい加減にしろ! 大体、ジャムなんて砂糖をふんだんに使う高級品じゃないか。そんなものを買う余裕なんてない。……まったく、妙な教養を得た女はなんて自分勝手なんだ。これだから魔力なしは……」
「無礼は承知のうえです! 私はクラム家のことを」
「黙れ! この――っ!?」
しつこく訴えようとするソフィアに嫌気が差したのか、ジョンがバッと手を上げると、途端にソフィアは身を固くした。振り下ろされる――しかし、痛みは一向にやってこない。
ソフィアが確かめると、ジョンの後ろに無表情のクロードが立っており、振り上げたジョンの腕を掴んで、一気に捻り上げた。
「な、何する……いてててっ!」
「一度言ったことは守ってくれなきゃ駄目よ。私は今、彼女とお話しているの」
反動でその場に押さえつけられたジョンを見下ろしながら、メリッサは告げる。その目に光はなく、静かな怒りが滲み出ていることにようやく気付いた。