役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜

「確かにケケ村の作物の品質は、この間の一件で改善され、さらに質の良いものが収穫できるようになってきた。だが、さすがに仕事を押し付けすぎじゃないか? 仕事を求めた若者が村の外に出ていって、少子化問題に発展していることはお前も知っているだろう」
「ええ。ですが、その一方で田舎で暮らしたいと思う人も少なくないのです。職探しも含め、それを解消できる土地と業務内容をヴィンセント辺境伯家は所有しています。活用しない手はありません。経費をざっと計算しましたが……売り出し方次第で調整できると思っています」
「売り出し方って……お前、まさか……」

 メリッサから手渡された提案書に目を通していく。ある記述で目が止まったオルディンは、苦笑いを浮かべた。それはソフィアも同じだったようで、口元を抑えて「無理です無理です無理です!」と首を大きく横に振った。
 アルフォンスは珍しく口元を緩め、オルディンの代わりに口に告げる。

「王家に献上してアピールをするとは、大胆にもほどがあるぞ」
「あら、殿下までそうおっしゃられるのですか? 私はできると思っていますけど。なんせ王妃はスイーツに目がないことで有名ですもの。辺境領で売り出されたことを知ったら、すぐに御者に遣いを出すでしょう。そこを狙います。あわよくば、アルフォンス殿下の口添えがあると嬉しいのですが……」

 ちらっと意味深にアルフォンスを見つめるメリッサ。横暴にもとれるその計画に、オルディンとソフィアは開いた口が塞がらない。
 単独行動が多いアルフォンスだが、国王をはじめとする王家の者たちとの関係性は、国民が思っているほど悪いものではない。義姉にあたる王妃陛下は食べることが好きで、珍しいものを見つけるとアルフォンスと情報を共有したり、お裾分けをしたりするなどといった良好な関係を築いている。
 これは噂好きなジェナからの情報なので、信頼してもいい。現にアルフォンスがコンポートを完食したのがその証拠だ。
 してやられた、と小さくため息を吐いたアルフォンスは言う。

「デーツまで持ってこさせておいて、王家の人間をここまでこき使う者はなかなかいない。俺でなければ周りから叩かれていたぞ。もし他国と重要な会合をしている最中だったらどうした?」
「それでも来てくれたということは、『住み心地改革』に希望を持ってくださっているのでしょう? デーツを送るだけなら、速達鳥に持たせるだけで充分のはずです。ご自身も一緒に移動する魔法なんて、ただ体力が削られていくだけですもの」

 ケケ村の一件もあって、メリッサにとってアルフォンスは信頼に値する人物だと思っている。なぜここまで付き合ってくれるのかはさておき、王弟が注目している改革を見過ごすようなことを王家はしない。それを逆手に取って利用するのだ。
 そして畳み掛けるようにオルディンとソフィアに向かって続ける。

「この立ち上げは私が行います。工場の人員もすでに募集しており、辺境領内に住む者もいれば、田舎暮らしに興味がある王都の住民が応募しているケースも見受けられます。……そして、目処がつき次第、このプロジェクトはクラム男爵家に先導していただきたいと考えています」
「えっ……ちょ、ちょっとお待ちください、メリッサ様! いくらなんでも荷が重すぎます。男爵家には人員も経費も余裕がなくて……夫も、あの状態です。そんな中、果樹園と両立して切り盛りするなんて、現実的ではありません」
「厳しいことを言っているのは重々承知よ。でも私は、あなたたちにお願いしたいと思っているわ」

 メリッサはソフィアの前にやってくると、震える彼女の手をそっと包んだ。
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