役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 ◇

 コロンの実消費計画は『コロン商品化開発事案』と改め、クラム男爵家とケケ村を中心に順調に作業が行われていった。
 イレスト区に設置された工場では、食品を扱う上で一番大切な衛生面を保つ厨房が用意され、緻密に計算された魔道具による製造ラインも整っていた。立ち上げとして工場長はメリッサとされているが、主に動かしているのはソフィア・クラム男爵夫人であるため、製造が安定してきたタイミングで明け渡す予定になっている。

(王妃様に献上したコンポートも上々。あとはどうやって販売していくかが重要ね)

 メリッサはふと、先日オルディンがソフィアとともに王都へ赴き、王妃にコロンの実のコンポートを献上して帰ってきた日のことを思い出した。
 珍しくオルディンが興奮気味で、「とても喜ばれていたぞ!」と満面の笑みを浮かべ、あろうことか、負担のかかる瞬間移動で戻ってきたのだ。
 ソフィアもされるがままの形となって混乱していたが、その実感はじわじわと湧いてきたようで、男爵家へ戻る頃には口角が普段より上がっていたようだった。

 コロンで作られたコンポートは『コロン・ポート』と名付けられ、甘いものに目がない王妃はたいそう気に入ったそうだ。公に出るまでの進行を辺境領に一任すると承諾を得て以来、ソフィアは商品化に向けたパッケージや新しいレシピ案を検討し、デーツ以外にもコロンの実の甘さを引き出す方法がないかを探っている。

「辺境伯様、メリッサ様。お久しぶりでございます」

 立ち上げから二ヶ月ほど過ぎた秋の中頃。新しいレシピで作った試食を持って辺境伯邸の応接の間にやってきたソフィアは、以前よりも活き活きとした表情をしていた。
 果樹園の方は、ソフィアがメニュー開発にしばらく集中できるように体制を整えたようで、ジョンは持病と相談しながらではあるものの、作業員たちとともにすべて受け持っている。
 双方ともにリスクはあるが、辺境領の特産品ができると知ると、住民も協力してくれている。もちろん、魔物討伐が現在落ち着いている今、騎士団も地域貢献へ尽くしてくれていた。

「クラム果樹園の運営もおかげさまでだいぶ安定してきました。夫の腰痛も、担当医と相談しながらですが快方へ向かっています。メリッサ様がくださった湿布薬も効いてくれているようです」
「それはよかったわ! ……それで、今日は何を持ってきてくれたの?」

 先程から後ろに控える侍女たちが、白い布をかけた皿を持っている。中身が気になるメリッサがそわそわしながら尋ねると、ソフィアはにっこりと微笑んだ。

「今日はコンポート以外での商品化を見据えたスイーツの試作品になります。ぜひ率直なご意見をお聞かせ願えますか」

 工場を安定にさせたのちに検討しているのは、飲食店の経営だ。今日はその見通しが可能かも含めた試食会となっており、メリッサとオルディンの前に試作品を並べていく。
 コロン・ポートがたっぷりと敷き詰められたパウンドケーキやタルト・タタン。紅茶とともに煮出したフルーツティーに、コンポートを氷で一緒に砕いたシェイク。コロンの中をくり抜き、中にデーツとレーズンを混ぜた特製バターを詰めてオーブンで火を入れた焼きコロンは、改良に改良を重ねたものだ。

「コロンは、デーツを一緒に煮なければ甘みが出せないと思っていましたが、中に詰め込む形でも可能であることがここ最近でわかったのです。いつかはそのまま食べられるように、ケケ村の方とコロンの木を改良できないかご相談していきたいと考えております」
「ほう、それは骨が折れそうだが、楽しみだな」

 ソフィアがメニューの説明をする傍らで、オルディンは美味いうまいと試作品を口へ運んでいく。メリッサもフォークで丁寧にパウンドケーキを切り出し、一口頬張る。コロンの実の甘酸っぱさが、絶妙に調整されたケーキの甘さによって包まれて、思わず頬が緩んだ。

「どれも美味しいわ! こんなにコロンの実をしっかり噛み締められるなんて、最高ね!」

 もう一切れ、とフォークを持つメリッサの手を、突然黒い手袋をした人物の手が覆うように掴んだ。
 そしてフォークはパウンドケーキを一切れすくうように取ると、そのまま流れるようにメリッサの後ろから顔を覗かせたアルフォンスの口へ消えていった。

「……これも美味いな。香辛料を足したスパイスケーキにしても合いそうだ」
「〜〜っ!?」

 舌を巻きながら冷静に告げるアルフォンスは、いつものような外套ではなく、濃紺のジャケットに金地の刺繍がされた貴族服姿だった。手櫛で整えるだけの銀髪も、珍しく綺麗に整えられている。
< 56 / 90 >

この作品をシェア

pagetop