役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
第四章 悪女のままではいられない
 朝から白い息が目立つ冬の季節が訪れた。

 ヴィンセント辺境伯領の新しい特産品であるコロン・ポートが領内外へ展開されると、過去最高の売上を叩き出すことに成功した。
 なんせ、この施策の立案者である『貴族潰しの出戻り令嬢』と呼ばれたメリッサ・ヴィンセントが関わっているだけでなく、今まで誰も成しえなかったコロンの加工方法をたたき出したのだ。
 王家や国内の貴族はもちろん、近隣諸国まで展開される前から注目されていた。

 しかし、その一方で、毎日ありったけのコロン・ポートを製造し、売り場に出しても、ものの数時間で完売してしまう日々が続くという、想定以上の人気の高さに頭を悩ませていた。嬉しい悲鳴とは、まさにこのことだ。
 現在の責任者であるクラム男爵家と相談して、人員も増やしているものの、コロンやビーツの収穫体制が整わない限りは現状を維持することに精一杯。製造ラインを新たに作るとしても、土地や維持費といった運営資金の面と人手不足ですぐの解消は不可能だと判断した。

「収穫のサイクルが短いコロンはともかく、デーツ以外にも作物を育てているケケ村にこれ以上負担はかけられません。デーツはしばらく異国からの輸入品を使うことにします。取引する商会のリストアップはこちらです。それと、土地の魔力が比較的高めにあるイレスト区の一角でもデーツの栽培を検討できればと思います。クラム男爵家と同業者であるシフォン伯爵家が協力を申し出てくださいましたので、これで男爵家の負担も減らせます。そして、新たな工場の土地候補は――」

 コロン・ポートの一件は住み心地改革の一つとして取り上げられ、今日は改革の報告会だ。
 辺境伯邸の執務室で淡々と状況報告を進めるメリッサは、時折、資料からオルディンとその隣にある不思議な鏡に目を向ける。普通の鏡であれば、映し出されるのは反射して移る人物とその背景であるが、この鏡は違った。

「――以上、住み心地改革の進捗となります。オルディン様、イザベラ様」
「ああ、わかった。今のところ大きな事件がないことは、さすがメリッサの手腕といったところか」
《ええ! とってもわかりやすかったわ。そういえばケケ村の魔道散水機のおかげで、品質にさらに目を向けることが出来たと、この間王都に野菜を持ってきてくれた方が仰っていたのよ。早速野菜のテリーヌにしたわ!》
「ベラ叔母様の元にも野菜が届いたのですね。テリーヌなんて……なんて贅沢な!」

 メリッサは鏡の中にいる人物に向かって笑いかける。
 これは魔道具の一つで、顔を合わせて連絡を取り合ことができる通信鏡だ。今、鏡の中にいる人物は、王都に住んでいる辺境伯夫人――イザベラ・ヴィンセント。淡いオレンジ色の髪に深緑色の瞳を持つ彼女は、辺境領が開拓をしていくための人脈を作る重要な立ち回りを担っている。
 イザベラは嬉しそうにふふっと笑みを浮かべて続けた。
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