役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜

 報告会から数日後、メリッサのもとにフロランス公爵家が主催するお茶会の招待状が届いた。
 何でも、「娘のリコリスがメリッサとぜひお話したい」という内容だったが、メリッサは苦い笑みを浮かべる。

(王妃としてではなく、公爵令嬢としての意図なのかしら)

 フロランス公爵家は国内屈指の貴族であり、管理している土地や商会などはコモンズ家よりも遥かに上だ。ここで上手く手を組めば、辺境伯家にとっても有意義ものになる。
 何より、隣には王都で人脈を広げているイザベラがいるのだ。メリッサが粗相をしてもすぐにカバーしてみせると笑ってくれた。

「……よしっ」

 メリッサはすぐに参加する旨の手紙をしたためると、ジェナに渡した。

「そうだ、ジェナも王都についてきてくれる? 支度はできるけれど、あなたの髪結いが一番好きなの」
「もちろんです! お嬢様のためならどこまでも……ってあれ? お茶会のために早めの出立となると、スケジュールが前倒しですね」
「そうなのよ……さぁ、どこから手を付けようかしら」

 メリッサは住み心地改革の旗振りを任命されてから書き続けている計画一覧表と進捗が書かれた羊皮紙をテーブルの上に広げる。
 すでにケケ村の不作問題は解決し、魔道散水機も村人たちによって改良に改良を重ねてより広く散水することが出来ていると聞く。あれから川の水が減るといった異常現象も起きていない。
 強いていえば、最近発見された鉱山にも手を回したいところだが、現在安全を確認するために騎士団による調査が行われている。手を出すのはそれが済んでからだ。
 コロン・ポートの工場管理はクラム男爵家と協力する貴族らに任せるとして、メリッサが次に目をつけているのは、住居の問題だ。
 工場のあるイレスト区に人が戻ってきたはいいものの、かえって急激に増えすぎて住居が足りていないことが目下の問題となっていた。とはいえ、森を削って土地を広げることは、先代たちの思いを無碍にすることになる。森に住まう魔物たちと争うといった、不毛なことはしたくない。
 すると、メリッサが思いつくのは一つだ。

(コモンズ家が所持していた広大な領地は今、王家の支配下に置かれている。どの貴族に管理させるかを検討していると聞いたけれど、その中でも叔父様が有力候補だってカインは言っていた。もしそれが通れば、一気に選択肢が増えるわ)

 文官の友人であるカインからの手紙でそのような話が上がったと聞いたのは、メリッサが離縁し、辺境領で暮らし始めてから少し経った頃。
 コモンズ家は自身の領地を都合よく使い、領民にひどく辛い日常を押し付けていた。中には悪さをする者も少なくないため、コモンズ家にデモを起こす者も見かけたことがある。

 たった半年の結婚生活だったが、不正の証拠を集めると同時に、境伯領がこれから治めていくかもしれない領地の些細な情報も片っ端からメリッサは目を通し、頭に叩き込んでいた。
 そして、カインの話が本当であれば、きっと王家はオルディンに打診するだろうと確信した。不法地帯と化している領地を一斉に害虫駆除を仕掛けることができるのは、武力でも信頼度でも圧倒的なヴィンセント辺境伯領以外、ありえない。

 しかし、あれから数ヶ月も月日が流れ、未だ進捗は上がってきていない。彼は時折、ケケ村で魔力の制御を教えるために辺境領を訪れているようで、ケケ村の野菜を届けにくる商人から彼の話を聞く程度だ。顔を合わせることも、手紙のやり取りもあの日以来止まっている。
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