役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
(このまま宥めるほうが時間稼ぎにはなるけれど……言われっぱなしも癪だわ)
王妃のいる前で喧嘩を買うようなことはしたくないが、黙ったままなのはメリッサの流儀に反する。
メリッサは席を立ってジェシカの前にやってくると、いたって平然を装う。
「ジェシカ嬢、そもそもクレイトン男爵家の借金自体なかったのです。私が金貨をコモンズ家に渡す義理は一切ございません」
「でもあなたは一時でも公爵家の妻だったのよ! 心の広いマルコムの許しで働かせてもらっていたのに、なんで恩を仇で返そうとするの? 公爵家に目をかけてもらっていたのだから、少しくらい誠意を見せるべきではなくて?」
「許し? 働かせてもらっていた? ……私がコモンズ家を去ったあの日、何の話をしていたのかわかっていますか?」
「同居の話じゃない。私がマルコムの屋敷に住むって言ったら、あなたが離縁状を叩きつけてきたのでしょう? 領地運営の不正かなにか知らないけれど、ありもしない事実をでっち上げてマルコムとお義父様を脅して、騙したじゃない!」
「そう……あなたは何も理解されていないのね」
彼女は何もわかっていない。コモンズ家が多くの領民を騙し、貧しい生活を強いていたことも、自身の借金の返済をメリッサに押し付けたことも――全部、理解していないのだ。
ただコモンズ「公爵家」という名に酔いしれているだけで、裏の顔など一切目を向けていない。
それは義両親とマルコムが意図的にそうしているのかもしれない。幼稚な彼女を巻き込むと、損害が大きいからと。
「――可哀想な人」
メリッサは扇子で口元を隠し、まっすぐジェシカを見つめる。どれだけ丁寧な説明をしても、きっとジェシカは理解できないだろう。以前の愛らしい容姿とは程遠い姿になってしまったことは、今までの彼女の行動をすべて否定することになるのだから。
「都合よい事実にしようとしているようだけれど、あなたも彼らと同類なのね? あの家の者は皆、自分のことしか考えていない。領民たちが苦しんでいても、自分が今夜飲める高級ワインのことしか考えていないのよ。いつか報いを受ける日が近からずやってくるわ。バクバク食べちゃうあなたにはわからないかしら、『食べ物の恨みは怖い』ものよ」
ジェシカは一瞬、自分が何を言われたのかわかっていないようでピタリと動きを止めたが、すぐにキッとメリッサを睨みつけた。
「……さい、うるさい! 誰からも愛されない悪女が! 私の幸せを否定しないで!」
途端、ジェシカはテーブル上のティーナイフを手に取ると、メリッサに刃先を向けて突っ込んできた。それに気付いた近衛兵が駆け寄るよりも早く、ティーナイフがメリッサの腹部に突き刺さった。その瞬間、メリッサの身体の力が抜けて、しなだれるようにジェシカに倒れこんだ。
王妃のいる前で喧嘩を買うようなことはしたくないが、黙ったままなのはメリッサの流儀に反する。
メリッサは席を立ってジェシカの前にやってくると、いたって平然を装う。
「ジェシカ嬢、そもそもクレイトン男爵家の借金自体なかったのです。私が金貨をコモンズ家に渡す義理は一切ございません」
「でもあなたは一時でも公爵家の妻だったのよ! 心の広いマルコムの許しで働かせてもらっていたのに、なんで恩を仇で返そうとするの? 公爵家に目をかけてもらっていたのだから、少しくらい誠意を見せるべきではなくて?」
「許し? 働かせてもらっていた? ……私がコモンズ家を去ったあの日、何の話をしていたのかわかっていますか?」
「同居の話じゃない。私がマルコムの屋敷に住むって言ったら、あなたが離縁状を叩きつけてきたのでしょう? 領地運営の不正かなにか知らないけれど、ありもしない事実をでっち上げてマルコムとお義父様を脅して、騙したじゃない!」
「そう……あなたは何も理解されていないのね」
彼女は何もわかっていない。コモンズ家が多くの領民を騙し、貧しい生活を強いていたことも、自身の借金の返済をメリッサに押し付けたことも――全部、理解していないのだ。
ただコモンズ「公爵家」という名に酔いしれているだけで、裏の顔など一切目を向けていない。
それは義両親とマルコムが意図的にそうしているのかもしれない。幼稚な彼女を巻き込むと、損害が大きいからと。
「――可哀想な人」
メリッサは扇子で口元を隠し、まっすぐジェシカを見つめる。どれだけ丁寧な説明をしても、きっとジェシカは理解できないだろう。以前の愛らしい容姿とは程遠い姿になってしまったことは、今までの彼女の行動をすべて否定することになるのだから。
「都合よい事実にしようとしているようだけれど、あなたも彼らと同類なのね? あの家の者は皆、自分のことしか考えていない。領民たちが苦しんでいても、自分が今夜飲める高級ワインのことしか考えていないのよ。いつか報いを受ける日が近からずやってくるわ。バクバク食べちゃうあなたにはわからないかしら、『食べ物の恨みは怖い』ものよ」
ジェシカは一瞬、自分が何を言われたのかわかっていないようでピタリと動きを止めたが、すぐにキッとメリッサを睨みつけた。
「……さい、うるさい! 誰からも愛されない悪女が! 私の幸せを否定しないで!」
途端、ジェシカはテーブル上のティーナイフを手に取ると、メリッサに刃先を向けて突っ込んできた。それに気付いた近衛兵が駆け寄るよりも早く、ティーナイフがメリッサの腹部に突き刺さった。その瞬間、メリッサの身体の力が抜けて、しなだれるようにジェシカに倒れこんだ。