役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
「いっ……いやあああ!」
「メリッサ様、メリッサ様!」
「誰か、彼女を取り押さえて! 早く!」
「――待って! 様子がおかしい」

 周囲が混乱する中、イザベラが声を上げる。
 先程からジェシカがその場からまったく動いていない。普通はすぐにでも離れたくて、倒れかかってきた相手が誰であろうが突き飛ばすはず。
 しかし彼女は小さく震えるばかりで、動こうとしなかった。
 すると、ゆっくりとジェシカの上に覆いかぶさったメリッサが起き上がり、ジェシカの両腕を掴んだ。

「大丈夫よ、ジェシカ嬢。あなたが恨む悪女は、こんなことで死なないわ」
「えっ……あ……ッ!?」

 ゆっくりと上体を起こしていくと、メリッサとジェシカの間にひび割れた空間ができており、ジェシカの腕はそこに突っ込まれている状態にあるのが周囲からも見て取れた。
 どうやら、メリッサの腹部を刺そうとしたティーナイフは、収納魔法の中に入ったことで空振りに終わったようだ。
 収納魔法の口から出てきたジェシカの手には、確かにティーナイフが握られていたが、刃先は何かの反動でくるくると曲げられている。

「ナイフ自体を落とすことも曲げることもできたけれど、少しは痛い目を見てもらったほうがいいかなって思って。怖かったわね」

 メリッサはジェシカの手からティーナイフを優しく取り上げる。体が離れても唖然としたまま動けないジェシカは、そのまま近衛兵に拘束された。

「皆様に怖い思いをさせてしまって申し訳ございません。……後日、コモンズ家にはしっかりとお話させていただきます」

 フロランス夫人が近衛兵と使用人にテキパキと指示を促した。サンルームの窓越しから、遠くに見慣れない馬車が停まっているのが見えた。彼女を連れてきた業者だろうか、事情を聞かなければならない。

「な、なんで……なんでこんな方法を取ったのよ!」

 サンルームを去る際、ジェシカはメリッサに食いかかった。悔しそうな表情で睨みつけるその姿は、半年前に自分を見下して勝ち誇った笑みを浮かべていた同一人物だとは遥かに思えなかった。

「働くことしか能のない下々の人間が! どうして私を馬鹿にするような真似をするのよ!」
「馬鹿にする? いいえ、私はあなたがこれ以上道を踏み外さないように留めただけ。特別な魔法を使ったわけでもない。そしてこれはあなたのためじゃない。私は――私の価値を、これ以上下げないためにしたの。勘違いも甚だしいわ」

 まっすぐ告げられた言葉に、ジェシカは唇を噛んだ。そのまま何も言わず、近衛兵に連行されていった。

(気付いてくれているといいのだけれど……)

 何も言い返せなかったのは、もしかしたらどこか片隅で違和感を覚えていたのではないか。メリッサにはそう思えてならなかった。
 その後、お茶会はお開きとなったが、周囲はメリッサを咎めるどころか、羨望の眼差しを向けていた。迎えの馬車が来るまでの間、メリッサに心配の声を伝えた。

「本当にお怪我はございませんの?」
「ええ、かすり傷一つも負っておりません。それより、元義家族の問題とはいえ皆様にご迷惑をおかけして……」
「謝らないでくださいまし! 確かに驚きましたけれど、メリッサ様に非はありませんわ」
「それにしても厄介ですわね。私の親戚が管理している領がコモンズ家に近いから、様子を聞いてみようかしら。何かわかったらお伝えいたしますわ」
「よいのですか?」
「もちろんです。その代わり、今度我が家のパーティーに招待させていただけないかしら。辺境伯領のお話をもっと聞きたいの」

 一時はどうなるかと思ったが、それでもお茶会の目的である人脈作りは上手くいったようだ。
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