役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 ◇

 翌日、フロランス邸での一件を知ったアルフォンスがセカンドハウスへやってきた。王宮から来たのか、濃紺にシルバーの繊細な模様が入った正装姿だ。
 応接の間に通すと、一番に問われたのはメリッサの安全だった。美しい青い瞳は、不安げな色を浮かべている。

「刺されたような振りをしたと聞いたが、本当に刺されていないんだよな?」
「ええ。収納魔法に腕を突っ込ませる前に、すでにティーナイフの刃先は伸縮魔法でくるくると巻いた状態にしていましたので、刺さるということはありませんでしたわ」

 ほら、この通り。と手のひらを開いて閉じてを繰り返したり、その場に立って一回転してみたりと無事をアピールするも、アルフォンスの顔色は一向に晴れない。
 しばらく沈黙が続いた。まさかここまで心配されるとはメリッサも思っていなかったので、どうしたらいいかタジタジしてしまう。

「ええっと……あの、本当に大丈夫で」
「今度の夜会、君は欠席したほうがいいかもしれない」

 メリッサの言葉を遮って、アルフォンスは食い気味に告げる。
 いつも無表情で、皮肉なことを言う時は小さく笑みを浮かべたりする彼が、いつになく真剣な眼差しで見据えてくる。ジェシカの襲来だけが要因ではなさそうだ。

「何か、あったのですか?」
「……コモンズの動きがどうもきな臭い。監査が入り、不正の事実確認も順調に進んでいる。が、いかんせん数が多い。さすがの王宮文官でも時間がかかっている。その間、大きく目立った様子はなかったが、最近になってコモンズ邸に不審人物の出入りが確認された」
「不審人物?」
「偶然近くを通りかかった御者が見かけたようだが、フードを目深に被っていて顔は見えなかったらしい。後日確認したら、かすかに移動魔法の痕跡を見つけた。だが、誰が使ったのかまでは俺でも突き止められなかった」

 魔法を使った場所には、目に見えない残り香のようなものが存在する。その跡を追った先には使用者がおり、犯人探しなどに役立てている。
 しかし、王家の中でも膨大な魔力と才能を持ち合わせているアルフォンスでも見つけられないというのは、相手はかなりの実力者であることが想定できる。
 では、なぜそんな人物がコモンズ邸に出入りしていたのか?

「殿下は、その謎の人物とコモンズ家が、何らかの利益のために結託しているとお考えなのですか」
「あくまで可能性の話だ。逆に問うが、君は、君の実家が何の関わりのないコモンズに接触された時、どう思った?」
「それは……おかしいと思いました。領地にも属さない、商会を通じてのやり取りもない。金を借りたという形での押しかけにしては、随分お粗末な方法でしたから」

 メリッサの生家であるクレイトン男爵家は、コモンズ家との関わりを一切作ることはしなかった。というのも、父は商才、母は魔法の才能に長けていたが、他にも人の本質を直感で見抜いていたのだ。コモンズ家の不正行為に確証はなくとも、なんとなく察していたのなら意図的に避けていたのかもしれない。
 何より疑問なのは、彼らが人質のように脅していたのが、クレイトン家の親戚にあたる子爵家についてだ。

「子爵家の関係は、先々代よりも遥か前に血を分けた兄弟がそれぞれ自立した形となり、今となっては疎遠と同然でした。私は家系図も頭に叩き込んでいたので把握していましたが、おそらく子爵家側は認識されていないかと思われます。……だから、おかしいのです。人質を引き合いとして名を挙げたのが、他人に近い子爵家であることが」
「……まさか」

 眉をひそめたアルフォンスに、メリッサははっきりと答える。

「子爵家と親戚関係は昔の話。最新の情報しか掴んでいないコモンズ家には調べても出てこない情報です。例え書物で残っていたとしても、彼らは読まないでしょう。……つまり、情報を提供したのは、昔からの関係性を知っていた人物。彼らの後ろには、黒幕がいるのではと考えます」
< 71 / 90 >

この作品をシェア

pagetop