役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 ◇

 ――数日後。近隣諸国の主賓が集まった会合は、穏やかに行われた。
 中でもヴィンセント辺境伯領での施策はエシャール王国の外まで伝わっており、多くの関心を得ていた。アルフォンスの兄であるエシャール王国国王は、「我が国の誇りである。だがまだ発展途上であることも事実。まだまだ外に出せるものではございませんよ」と、他国から手を出させないようにこやかに牽制していた。

 様子を陰で伺っていたアルフォンスは、他の者に任せて一度廊下に出た。
 兄の発言は時折ヒヤヒヤさせられることがあるが、異論はない。彼のターンが終わったので、見守りの役目も終えただけである。あとは側近がなんとかするだろう。

(今のところ問題はなさそうだ。残るは夜会のみ。かつてないほど厳重にしているが、抜け穴がないとは言い切れない)

 王宮内の警備は万全で、不審者が入れば自動的に結界魔法が発動する仕様になっている。
 アルフォンスは思考を巡らせ、今夜の警備体制の再編成の他にコモンズ家と通じている関係者を頭の中でリストアップしていく。
 コモンズ家については、精査に思った以上に時間がかかっていることもあって正式な通たちはこれからだが、公爵からの降格が確定していることもあって夜会には招待していない。そもそも、夜会自体は公にしておらず、参加を促したのは王家が信頼する限られた貴族のみだ。

(この厳重な警備に飛び込んでくるなんてことは、ないと思うが……)

 悶々と考えながら自身の執務室へ戻っていると、扉の前で誰かが立っていた。王宮文官の制服姿に焦げ茶の癖毛に丸メガネの男性――カインだ。
 アルフォンスが来たことに気付くと、彼はにっこりと笑みを浮かべて出迎えた。

「ご機嫌麗しゅう、アルフォンス殿下。お勤めご苦労さまです」
「……何か用か?」
「ケケ村の時から僕のことを敵対視しすぎではありませんか? 結構傷つきますよ」

 しょんぼりと肩を落とすフリをするカインをよそに、アルフォンスは執務室へ入っていく。流れでカインも入ってきたが、まあいいだろう。

「君が俺の視線だけで気落ちするような奴ではないのはわかっている」
「その信頼されているのか、僕がメリッサと仲がいいことを嫉妬してなのかよくわからないお褒めのお言葉、ありがたく頂戴しますね」
「…………」
「怖っ。無言で睨みつけるのはよしましょうよ。……真面目にやりますよ」

 カインはアルフォンスの前に、近隣諸国を含めたエシャール王国の地図を広げる。細かく何かを書き込んだ箇所がいくつかあり、矢印がひかれた中心にはヴィンセント辺境伯領がある。

「辺境領の隣はサーラント王国。魔物の出現が多い場所とはいえ、最近動きが活発になっています。辺境騎士団からの報告によると、国境付近に魔物を引きつける薬が撒かれていたようで、解析の結果、撹乱作用の強いものとわかりました。撤去作業を急がせていますが、このままだと魔物が押しかけてくる可能性があります」
「どう見ても人の手によるものだな。薬の出どころは?」
「現在調査中ですが、中にはコモンズの目撃情報もあります」

 コモンズ――その名前を聞いて、アルフォンスのこめかみがピクリと動く。
 自身の管理する領地だけでなく、無関係なメリッサまでも巻き込んで私腹を肥やした悪徳貴族。フロランス家のお茶会に突如現れたジェシカの件といい、彼らの動きには違和感を覚える。

「調査を急がせろ。辺境領には速達鳥で共有を。必要なら王宮騎士団の小隊を向かわせてくれ」
「承知いたしました。……しかし、無能なコモンズ家は一体何を考えているのでしょうね」

 意味深に言い残して執務室を出ていくカインを見送ると、アルフォンスは少し考えて席を立った。
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