役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 和やかに挨拶を終え、今度は他国の主賓や貴族らに声をかけていく。本来であれば、オルディンとイザベラの仕事ではあるが、辺境領の魔物討伐が長引いているようで、その間の繋ぎを任されるのもメリッサの役目だ。
 中にはコロン・ポートだけでなくケケ村で見つかった鉱山の話を聞きたがる者もいて、二人がようやく一息をつけたのは随分経ってからのことだった。
 バルコニーのほうへ出て、二人してふう、と大きく息を吐いた。

「どうだ、夜会の挨拶回りは」
「初めてではありませんでしたが、こんなに囲まれるのは想定外でしたわ」
「随分お疲れのようですね、お二人とも」

 そう言って声をかけてきたのは、二人分のシャンパングラスを持ったカインだった。普段は文官の制服姿でいることが多いからか、珍しくベージュのシンプルな正装姿は新鮮である。

「カイン、久しぶり! ずっと連絡がなかったから心配だったのよ!」
「あははっ。ごめんね、僕も忙しくて。別途報告した通り、ケケ村のほうは一段落ついているから安心して。さぁ、飲み物でもどうぞ。疲れたでしょう」

 二人の忙しい様子を見ていたようで、気を使って飲み物を持ってきたらしい。一つずつ受け取って煽ると、柑橘系の爽やかな香りが頭をシャキッとさせてくれる。

「これ、サーラント王国で人気のレモン水ね。そっか、今日は他国の料理も提供しているのだったわね」
「僕はこれがお気に入りでね、自分でもよく作るんだ。殿下のお口にもあうといいんだけれど」
「アルフォンス殿下!」

 三人で談笑していると、正装に身を包んだ近衛兵がやってきた。

「どうした?」
「ヴィンセント辺境騎士団より伝たちです。サーラント王国から流れ込んできた魔物を抑えきれず、領都まで被害が拡大。至急、王宮より援軍を向かわせましたが、間に合うかどうか……」
「ありえないわ! あの叔父様が?」

 あまりにも唐突な報告で、オルディンを持ってしても崩されてしまった事実を叩きつけられ、メリッサは顔を真っ青にした。
 そんな彼女の肩に、そっとアルフォンスが手を乗せる。

「メリッサ、落ち着け。大丈夫だ」
「殿下……はい」
「移動魔法で俺が先に向かう。数名なら一緒に連れていけるだろう、選定の準備を」
「はっ!」
「カイン、メリッサを頼む。……手を出したら許さんぞ」
「怖っ。わかっていますよ」

 やれやれ、と肩をすくめるカインを横目に、アルフォンスは近衛兵を連れて中へ戻っていった。これから国王へ報告し、辺境領へ向かうのだろう。
 メリッサは自分も連れて行ってくれ、と懇願するのをぐっと堪えた。行ってしまったら、「成すべきことを成せ」とアルフォンスに告げたオルディンに叱られてしまう。
 大好きな辺境領のピンチに駆けつけられない自分の不甲斐なさを悔いることしかできないが、メリッサには今できることをするしかない。

「……君は強いね、メリッサ」

 平常心を取り戻したメリッサを見て、カインは感心しながら言う。

「普通の令嬢であれば、倒れてもおかしくないんだよ?」
「ここで倒れるわけにはいかないのよ。それに、信じているもの。辺境領も叔父様も。もちろん、アルフォンス殿下もね」
「……そっか、ならいい。お腹は空いていない? 何か取ってくるからここにいて」

 どこか納得したように小さく息を吐くと、カインは再び屋内へ入っていった。メリッサには、カインが何か言いたげな様子にも見えた。戻ってきたら聞いてみよう。
 そう思って視線を外に向けた途端、後ろから声をかけられた。

「――やぁメリッサ、半年ぶりだね。随分と楽しんでいるようじゃないか」
「……嘘」
 メリッサは目を見張った。そこにいたのは、かつての夫――マルコムだったのだから。
< 77 / 90 >

この作品をシェア

pagetop