役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
公爵の打診に、メリッサは眉をひそめた。
離縁状を叩きつけたのはこちらだが、隠れてジェシカとの愛を育んで家族から除け者にしていたのは彼らのほうだ。一度痛い目に遭っているというのに、それでもメリッサと再婚させようとする目的がわからない。
「冗談ですわよね? コモンズ家の妻の座には、ジェシカ嬢がいるではありませんか」
「ふん! あの小娘か、何でも好き放題して、我が家はここ半年だけで昨年の倍の赤字だ! 貴様は愛想がないが、まだ利用価値はある。それに……マルコムが熱望しているからな」
「そうだよ、メリッサ。僕の妻は君以外ありえない、一緒に公爵領へ戻ろう」
恍惚の笑みを浮かべたマルコムは両腕を広げ、一歩、また一歩と近づいてくる。
公爵家にいた頃、この自分に酔いしれている表情をする時のマルコムは、見境なく人に絡み、強要してきた。肩書は妻でも、使用人同然の扱いを受けていたメリッサにその矛先が向くことはなかったが、その場面を何度か目撃したことはある。
(気持ち悪っ!)
メリッサは咄嗟に手を前に掲げて小さなつむじ風を作り出すと、マルコムとの間に風の壁を隔てた。
「そんなことをしてもいいのかなぁ? 君の大好きな辺境領が、魔物たちに壊滅させられてもいいのかい?」
「……なんですって?」
辺境領が隣国のサーラント王国から流れ込んできた魔物たちに応戦していることは、王都に集まった近隣諸国の主賓たちを混乱させないために情報は伏せられている。それがなぜ、コモンズ家が知っているのか。
(そういえば、魔物の暴動は人工的なものだって、殿下が――まさか)
最悪な想像をしてしまった。みるみるうちにメリッサの表情が青ざめていくのを、彼らは嬉しそうに見ていた。
マルコムはまた一歩踏み出すと、メリッサが作り出した風の壁を片手でかき消した。魔法で相殺されたわけではない、メリッサの動揺が魔力に伝わり、一瞬で綻びができてしまったのだ。
「想像している通りだよ。魔物の暴動は、君のためにしたことさ! 僕らを受け入れてくれたら、これ以上の被害は出さないと約束しよう。もう手遅れかもしれないけどね」
「……ありえないわ、錯乱状態の魔物を意図的に動かす方法をあなたたちが持っているなんて。この警備の中をかいくぐって入ってきたのも、お仲間のおかげかしら?」
王宮騎士団の指揮のもと、今夜の警備は厳重だと聞いている。フロランス家のお茶会でのジェシカの一件もあって、コモンズ家の三人は警戒されていたはずだ。
しかし今、関係者以外が立ち入れない会場で、正装の姿で堂々と侵入できているということは、内側から手引きされた可能性がある。
よくぞ聞いてくれた、とばかりに公爵はニタニタと笑いながら言う。
離縁状を叩きつけたのはこちらだが、隠れてジェシカとの愛を育んで家族から除け者にしていたのは彼らのほうだ。一度痛い目に遭っているというのに、それでもメリッサと再婚させようとする目的がわからない。
「冗談ですわよね? コモンズ家の妻の座には、ジェシカ嬢がいるではありませんか」
「ふん! あの小娘か、何でも好き放題して、我が家はここ半年だけで昨年の倍の赤字だ! 貴様は愛想がないが、まだ利用価値はある。それに……マルコムが熱望しているからな」
「そうだよ、メリッサ。僕の妻は君以外ありえない、一緒に公爵領へ戻ろう」
恍惚の笑みを浮かべたマルコムは両腕を広げ、一歩、また一歩と近づいてくる。
公爵家にいた頃、この自分に酔いしれている表情をする時のマルコムは、見境なく人に絡み、強要してきた。肩書は妻でも、使用人同然の扱いを受けていたメリッサにその矛先が向くことはなかったが、その場面を何度か目撃したことはある。
(気持ち悪っ!)
メリッサは咄嗟に手を前に掲げて小さなつむじ風を作り出すと、マルコムとの間に風の壁を隔てた。
「そんなことをしてもいいのかなぁ? 君の大好きな辺境領が、魔物たちに壊滅させられてもいいのかい?」
「……なんですって?」
辺境領が隣国のサーラント王国から流れ込んできた魔物たちに応戦していることは、王都に集まった近隣諸国の主賓たちを混乱させないために情報は伏せられている。それがなぜ、コモンズ家が知っているのか。
(そういえば、魔物の暴動は人工的なものだって、殿下が――まさか)
最悪な想像をしてしまった。みるみるうちにメリッサの表情が青ざめていくのを、彼らは嬉しそうに見ていた。
マルコムはまた一歩踏み出すと、メリッサが作り出した風の壁を片手でかき消した。魔法で相殺されたわけではない、メリッサの動揺が魔力に伝わり、一瞬で綻びができてしまったのだ。
「想像している通りだよ。魔物の暴動は、君のためにしたことさ! 僕らを受け入れてくれたら、これ以上の被害は出さないと約束しよう。もう手遅れかもしれないけどね」
「……ありえないわ、錯乱状態の魔物を意図的に動かす方法をあなたたちが持っているなんて。この警備の中をかいくぐって入ってきたのも、お仲間のおかげかしら?」
王宮騎士団の指揮のもと、今夜の警備は厳重だと聞いている。フロランス家のお茶会でのジェシカの一件もあって、コモンズ家の三人は警戒されていたはずだ。
しかし今、関係者以外が立ち入れない会場で、正装の姿で堂々と侵入できているということは、内側から手引きされた可能性がある。
よくぞ聞いてくれた、とばかりに公爵はニタニタと笑いながら言う。