役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
「な、なんだ!? この音圧……異常だぞ!?」
「それはそうでしょうね。国一番の『軍神』が戻ってきたのだから」
メリッサがマルコムを押しのけて立ち上がりながら、わかったように告げる。それを聞いて、コモンズ夫妻が慌てて中へ入ると、目の前の光景に目を疑った。
そこには、鎧姿のオルディン・ヴィンセント辺境伯が、妻のイザベラを連れ添って入場する様子だった。鎧や騎士服は綺麗なものだったが、つい先程まで辺境領での魔物討伐に参加していたのか、頭や腕に包帯を巻いている。
その後ろにはクロードの姿もあった。彼もまた傷を負っているようだが、普段の毅然とした態度を崩すことなく振る舞っていた。
隣を並んで歩くイザベラは、辺境伯夫人としての威厳をその美しい姿勢で示した。何事にも動じない凛とした瞳は、会場にいる多くの者たちを魅了する。
そして国王の前にやってくると、彼らは跪いて挨拶をした。
「遅くなり申し訳ございません。サーラント王国との国境付近から入ってきた魔物二九六体、すべて討伐が完了しましたことを報告いたします」
「はぁ!?」
オルディンの報告が淡々と続く中、奇声が上がったコモンズ夫妻に注目が集まる。
「あれって……コモンズ公爵では? 今監査が入って大変なんじゃ……」
「そもそも、招待からは外されていなかったか? なんでここに?」
周囲がひそひそと小声で話しているのが聞こえて、二人はハッとする。ここで目立ってはいけない、あくまで自分たちは望まれぬ客なのだとわかっていたはずなのに!
その様子は遠く離れた位置にいたオルディンや国王のもとにも届いていたようで、二人が揃ってやってきた。周囲は道を開け、野次馬のようにバルコニーの様子を伺う。
オルディンは不敵な面構えで公爵の前に立ちはだかった。
「メリッサだけでなく、俺の大切な領民たちにまで手を出すとは。随分大きく出たな、コモンズ」
「な、なぜだ……魔物の群れだぞ、三〇〇近い魔物たちに辺境領を襲わせたのだ。いくら辺境騎士団でも、この数日ですべてを片付けられるわけがない!」
公爵がギリギリと奥歯を噛み締めていると、今度は後ろから「うわあ!」と息子の情けない声が聞こえた。
振り返れば、マルコムの腕を捻り上げるアルフォンスの姿があった。
「い、痛い! おい、離せ! 僕を誰だと思っている!?」
「俺が誰かも知らないとは……コモンズ、跡取りの育て方を間違えたな」
アルフォンスはマルコムの腕を掴んだまま、力任せに夫妻の方へ放り投げる。
「ああ、マルコム!」
「王弟殿下がなぜ……援軍に向かったはずでは!?」
「行ったフリをした。メリッサを一人にして、お前たちを引っ張り出すための芝居だ」
近衛兵がアルフォンスを呼びに来ることも計画のうちだった。辺境領の緊急事態を聞いてメリッサが動揺したところを狙うと予測していたが、まさか引っかかるとは。
先程まですっかり青ざめていたメリッサは、けろっとした様子で問う。