役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 コモンズ家の乱入が発覚し、騒然とする中、とある男は馬車を待たせているエントランスへ向かっていた。
 彼らの愚かな行動は予測していたが、すべてがメリッサ・ヴィンセントによる知略で失敗に終わった。しかしその事実こそ、男が求めていたものだったのかもしれない。
 男が馬車に手をかけたその時、後ろから聞き馴染んだ彼女の声が聞こえてきた。

「もう少しゆっくりしていったら? 誰にも言わずに立ち去るなんて淋しいじゃない、カイン(・・・)

 名前を呼ばれ、男は振り返った。月夜に照らされるメリッサの赤い瞳は、一段と爛々としている。

「やぁ、メリッサ。その様子だと、移動魔法で飛んできたのかな。僕よりも、もう少しコモンズと別れを惜しまなくていいのかい?」
「半年前にお別れしてきたつもりよ。あの時は心ばかりの贈り物をしたけれど……もう同情する気もないわ。それに、あれはアルフォンス殿下の仕事だもの。私は私で、隣国の使者には丁重にもてなさなきゃ失礼でしょう?」

 そう言って向けられた先には、今乗り込もうとしている馬車の車体に刻まれた紋章。隣国サーラント王家のものだ。

「コモンズ一家を裏で操って私にちょっかいを出してきたのはあなたね」

「……どうして王宮文官である僕が、君のような希少価値のある君にヘイトを向ける必要があるんだい?」
「あなたがサーラント王国のスパイであれば、辺境領の住み心地改革を進める私は邪魔者になるでしょう。クラム果樹園にコロンの木を仕込んだ作業員の逃亡先や、今回の魔物の暴動騒ぎが意図的に仕込まれていたことを踏まえても、サーラント側がヴィンセント辺境領を疎ましく思っているのはわかっていたわ」

 バルコニーでメリッサに詰め寄っていた時、そして連行される最中にも、コモンズ公爵の口から「あのお方」と何度も出てきた。誰だと問い詰めても具体的な明言はせず、ただ狂ったように連呼するばかりだった。だからカインがスパイである確証は正直得られていなかったのだが、この状況を目の当たりにして納得した。

「ルシアン・カイン・サーライト――サーライト王国の第三王子が、なぜエシャール王国に?」
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