役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
カインはふう、と大きなため息をついてから、小さく笑う。
「僕が隣国の王子ってこともあるだろうけれど、辺境領に仕掛けた結界魔法のせいで、拘束するほどの魔力が残っていないんだろう? マルコムにも片手で払われるくらいだったもんね。立っているのもやっとなんじゃないかい?」
そう言ってメリッサの前に手を伸ばす。手のひらには何かの魔法陣が描かれていた。それが何かわかった時、メリッサは身を引こうとしたが、カインの指摘通り、残り少ない魔力で立っているのも厳しく、急には動けない。
「確かに、今の私なら、その睡魔の魔法陣で眠らせて隣国に連れていくことは可能ね」
「いや、さすがにやめておくよ。嫉妬深い王弟や圧倒的武力を持つ辺境騎士団に攻め込まれたらたまったものじゃない。今回は見逃してもらうよ」
彼はここまで考えたうえで魔法陣を仕込んでいたのだろう。悔しそうにメリッサが眉をひそませると、「最後に、聞かせてくれる?」とカインは続ける。
「もし僕が、君に本音を明かして隣国に連れて帰りたいと言ったら、君は応えてくれたかい?」
その問いかけは、人を試すような挑発の笑みからは感じられないほど、どこか懇願しているかのように震えた声色に聞こえた。
メリッサは考える間もなく、首を横に振る。そして屈託のない笑顔で告げた。
「ごめんなさい。例えあなたがこんな馬鹿げたことをしなくても、本音で明かしてくれていたとしても、私はこの国から離れない。まだまだ『住み心地改革』は終わっていないし――何より、やりたいことがたっくさんあるのよ!」
「やりたいこと……?」
「土地の魔力があるからといって、油断はできないわ。不作の地はまだあるから、調査を重ねて原因を追求しないといけない。王都にあって便利だった魔道具を辺境領にも普及したいもの。自分でも作ってみたいし、ああ、コロンとデーツの改良もしたいわ!」
それからそれから、とどんどんとやりたいことを挙げていく。自分でもわかるほど、口角が自然と上がっているのがわかる。そうしてぽかんとした気の抜けた顔をするカインに、改めて答える。
「私は尊敬する叔父に、大好きな領地を発展させるための最高のお役目をいただいたのよ。尾びれのついた噂話も、隣国からの脅しも、これからの結果ですべてねじ伏せてあげる。――これ以上、私の人生は誰にも譲らせたりしないわ」
「……なら、君の活躍はこの先も近隣諸国に轟くことになるんだろうね。僕の手には負えないや」
メリッサが最後に見た彼の表情は、どこか吹っ切れたようにすっきりした笑顔だった。