ぼろきれマイアと滅妖の聖騎士
◇◇◇
わずかにかかっていた雲が切れた。
透明な日差しが草原を照らし、山あいを貫く。
ゆっくりと丘を登ってゆくマイアも、秋の早朝の橙色がかった光に包まれている。
今日は外套を羽織っていない。あまりにぼろぼろで恥ずかしかったのだ。
飾りもないざっくりとした薄灰色の一枚着。が、丘を通り抜けていく風に揺らされる彼女の青紫の髪も、栄養不足でほっそりとしている手足も、この穏やかで柔らかな空気のなかでは不思議にきらめいて見えたのである。
「……ん、ふうう」
頂きに到着し、手を組み合わせて天に掲げ、伸びをする。村から少し離れており、家も畑もないから村人は誰も来ない。マイアも初めてだったが、良いところだなあと、自然と笑みがこぼれた。
それにしても、そろそろ太陽が山から離れる。
「お相手の俳優さん、太陽が昇り切った頃に……って、言ってたんだけどな」
独り言ちながら周りを見回す。
と、遠くにぽつりと、白い影を見つけた。
村とは反対の方角だ。西の方に向かう細道。
その奥、ずっと遠くに、なにかが動いている。
マイアは一気に緊張し、手を前に重ねて、遠くの影に深く頭を下げてみせた。