ぼろきれマイアと滅妖の聖騎士

 白い影は、一頭の白い馬だった。
 その上の男性も、やはり白い装束を身に着けている。
 マイアは本物の騎士を見たことはないが、劇団の演《だ》しものの多くに魔法使いやお姫さまと一緒に登場していたから、それが白い甲冑を身に着けた騎士であることはすぐにわかった。

 馬はゆっくりと近づいてきて、丘のふもとで足を止めた。
 騎士はしばらくこちらを見上げた後でふわりと馬を降り、斜面を登ってくる。
 その距離まで来ると顔かたちがはっきりと見えるようになる。

 荒々しく伸ばされた白金の髪。
 意志の強そうな頬骨、顎。
 装束の上からでもそれとわかる、鍛え上げられた細身の身体。
 そしてなにより、彼女を射抜くように向けられる、紺碧の瞳。

 マイアは、息を呑んだ。よろめいた。数歩下がり、手を口に当てる。涙が滲んでいる。

 まずい。
 タイプすぎる。
 これは、だめなやつだ。

 「……あのっ!」

 声を発し、同時に彼女の全身から汗が噴き出た。
 出した声がきれいに裏返っていたからだ。
 だが、乗り越える。乗り越えてみせる。

 「あの、きょきょ、きょうは、ほんとに、ごきゅろうさまでござす!」

 乗り越えることはできなかった。

 なぜ礼の言葉ではなく、ご苦労さまです、という単語を選択したのかと彼女を責めることは容易だが、もはやそういう次元ではない。が、そのことは彼女も自覚しており、言葉を発した後は顔面を朱に染めて硬直している。
 それでも相手が黙っているから、なんとか続きを絞り出した。

 「き、騎士さまのかっこ、なんですね。へ、へへへ、か、かか、かこよい、です。しゅてき、です。へへへへ、お、おいしそ」

 絞り出した結果はさらに混迷の度合いを深めていた。美味しそうという言葉が自分のどこに埋蔵されていたのかと彼女は自らを呪った。最悪の深度を更新し、彼女の目尻には涙が浮かんできた。
 なんとかせねば。この窮地を。お相手さん、俳優さん、怒って帰っちゃう。こんなんじゃ、呆れられちゃう。

 「ま、まじゅは、座りたまえ。ここ、ここ、ね、ほら」

 足元の下草を指さし、自ら先に腰を下ろす。そのまま膝を抱え、頭を埋める。
 も、帰ってもらおかな……なんか気の毒になってきた……。


 ◇◇◇

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