ぼろきれマイアと滅妖の聖騎士
丘のふもとまで馬を進め、その脚を止めた。
レヴィンは丘の頂に立つ姿に視線を置き、しばらく動かない。観察しているのだ。人間型。女。武装なし。だが、どこか異様だ。
そう感じる原因は表情かもしれない。一見、笑っているように見える。が、その笑みが顔面の筋肉によって作られていることを彼は鋭敏に見抜いている。
……まあ、いい。もとより生贄だ。相手の懐に飛び込むまで。
そう思い定めて、彼は馬を降り、足を踏み出した。ざくざくと下草を踏んで丘を登ってゆく。近づくにつれて相手の顔かたちが明瞭に捉えられた。
女というより、少女。人間なら、二十……いや、十七歳ほどか。起伏のない体格。手足も細い。が、いまこちらに向けている紫の瞳だけが、どこか不自然なほどに熱を帯びているように感じられた。
と、相手が心なしかよろめいたように思えた。攻撃か、と身構えようとしたがそうではないようだった。直後に口を開く。聞き取れない。甲高い音で、早口で発声されるためだ。レヴィンは以前、深夜の街で実体化した妖魔と対峙した際、似たような声を向けられたことがある。
が、次の言葉は聞き取れた。
へ、騎士さまの恰好かよ、捨てる気だな、美味しそう。
意味は取れない。が、通じる。王宮の聖騎士ともあろうものが、殺されるとわかっていて命を捨てにきたのだな。美味しく喰ってやるから、覚悟しろ。
その直後に相手はまた聞き取りずらい発声をし、座り込んだ。苦しんでいるようにも見える。人間の形状を長時間、維持することが困難なのだろう。
ある程度の会話が成立することが分かったため、彼は相手の隣に腰を下ろした。あとは、委ねるのみだ。自らの命を。相手の望むままに。
◇◇◇