魔法☆乙女(マジカルメイデン) ~九尾のキツネと五百年の約束~
第14話 九尾のキツネと魔法乙女
転移の門を通ってすぐの、異界の野っ原――。
朝の九時。青い空。白い雲。遠くでトンビが飛んでいる。
実にのどか。……ここ以外は。
そう。あたし、ルナ、モコ太くん、アヤちゃんの四人が見守るなか、アンコちゃんとクウミさんがバチバチと火花を飛ばしていた。
白衣に緋袴、千早と、上から下までバッチリ巫女装束で身を固めたアンコちゃんと、絢爛豪華な花魁の衣装を着込んだクウミさんとが、親の仇でも見るような表情でにらみ合っている。
それにしても、さすが先代の魔法乙女、迫力がハンパない。
空気が震える音が聞こえてきそうな気さえする。
口火を切ったのは、クウミさんだ。
「まずは言いわけを聞こうじゃありんせんか、杏子」
「言いわけ? なんの?」
「とぼけるんじゃありんせんよ! あちきをだまして異界へ封じ込めたことに対して、何か言うことはありんせんのかって聞いてんだい!」
アンコちゃんの眉がピクっと動く。
「……だました? 私が? 私がいつあんたをだましたのよ」
「とぼけるんじゃありんせんよ! 迎えに来ると言ったのは、どこの誰だい! それが、待てど暮らせど迎えに来ねえ。だましたじゃのうて何だってんだい!」
ドドォォォォン……。
いきなり遠くでカミナリが落ちた。
こんなに晴れているのに?
伝説級の妖怪にまでなってしまうと、感情の変化が天候にまで影響を及ぼすってことなのかな。
アンコちゃんはクウミさんの舌鋒をモノともせずに言い返した。
「私は確かに言ったわよ、その時が来るまでここで大人しく待っていなさいと」
クウミさんの頬がヒクっと動く。
ヤバい、ヤバい、めっちゃ怒ってる!
「……じゃあ聞かせていただきんすけど。『その時』とやらは、いつ来るはずだったんでありんすか」
クウミさんの問いに、アンコちゃんは今度は沈黙で返す。
「五百年もとじこめといて、返す言葉もありんせんのかい!」
クウミさんが怒って叫ぶ。
気持ちは分かる。
「まぁでも、五百年は長いよね」
「ちょっと待たせすぎよね」
「そこ、茶化さねえの!」
怒りのほこ先がこちらに向かいそうだったので、慌てて口をつぐむ。
深刻な場に出くわすとつい笑いの虫が騒ぎ出しちゃう。性分だねぇ。
「黙って聞いてりゃ言いたい放題……」
アンコちゃんがゆっくりと顔を上げ、クウミさんをにらみつけた。
「あんたそう言うけどさ、そんな状態のまま解放してやるわけにいかないじゃないの! そのまま現世に出たら、今度こそ退魔師総出で退治せざるを得ないんだよ? だからこっちは、あんたの妖力が自然放出されるのをひたすら待ってさ! なんで私が相棒契約を解除していなかったと思う? いずれ再び、一緒に冒険をしたかったからに決まっているじゃないのさ!」
「遅いんだよ……」
地面を見つつ、低く押し殺したような声でつぶやいたクウミさんは、次の瞬間、アンコちゃんに向かって全力で叫んだ。
「遅いんだよ!!」
ドドドドドドォォォォォォォォン!!
直後、またも雷が落ちて、視界が一瞬真っ白になる。
空を見ると、あちこちに雲がわき出て風に流され始めている。さっきまでのピーカンが嘘みたいだ。
何となく風が湿ってきた気がする。雨が降るのかもしれない。
更なる感情の爆発を必死でこらえているのか、クウミさんが血管が浮き出るほど強く、両手のこぶしをギュっと握りしめている。
そうしてアンコちゃんをにらみつけるその顔は、なぜだかあたしには泣いているかのように見えた。
クウミさんが続ける。
「……もう充分、もう充分でありんす。ならばやはり、主さんたちを倒して現世を残らず平らげるとしんしょう!」
空気が大きく震えた。
見ている目の前で、クウミさんが人間形態から巨大キツネへと変化する。
いや、デカい、デカい、デカい、デカい。
ホント小山。もう、学校の校舎レベル。
巨大化したクウミさんは、大きく口を開くと、あたしたちに向かって燃え盛る巨大な火焔を吐いた。
「全て終わりにしてやりんす!!」
「「「きゃぁぁぁぁあああああ!!」」」
とっさのことに対処できずその場に立ち尽くしたあたしたちは、一瞬で炎に包まれた。
反射的に目をつぶるも、熱波があたしたちを飲みこむことはなかった。
熱くない。おそるおそる目を開く。
「れれれ? なんで?」
『ほっほ。間に合ったようじゃの』
『言うほど余裕はなかったですけどね』
「玄武さま! 青龍さま!」
気づくと、あたしたちを囲むように人間形態の聖獣さまたちが立っていた。
燃えさかる炎の柱の中にすっぽり入ってしまったあたしたちを護るかのようにバリアを張ってくれている。
『とはいえ、あんまりもたねぇぞ!』
『今の弱った私たちでは二撃目を防ぐのは無理よ。最後の力を振りしぼって炎柱を吹き飛ばすから、その隙に変身なさい、魔法乙女!』
「ありがとうございます、白虎さま! 朱雀さま!」
あたしとルナはうなずくと、すばやく変身ポーズをとった。
気合は充分。いくよ!
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
かけ声とともに大きく二回、柏手を打つと、両腕のブレスレットがうなりをあげて回転し始めた。
直後、炎柱が吹っ飛び、聖獣さまたちの姿が薄れて消える。
爆風が駆け抜ける中、あたしの隣にいたアヤちゃんが光と化してブレスレットに吸い込まれた。
「アヤちゃん? アヤちゃん!」
慌てる間もなくブレスレットから炎の龍が飛び出し、あたしの周囲をグルグルと激しく飛び回る。
火の粉があたしに降りかかるたびに、服がみるみる新たな服へと変化していく。
巫女の白衣、膝上二十センチの赤い袴、白のニーハイソックス、そして赤い鼻緒の草履と、いつもの格好になったと思いきや、ここで思いもかけない変化があった。
なんと、白衣の襟元、袖口、袴の裾に真っ白なフリルがあしらわれていたのだ。
まるで、巫女装束風のロリータ服じゃん!
思わず隣のルナに向かって叫ぶ。
「め、めっちゃ可愛くなったんですけど!!」
「相棒を得てパワーアップしたってことなのかしら。うん、悪くないわね」
衣装のバージョンアップに大興奮するあたしに対して、ルナはそこはかとなく満足気な表情を浮かべるにとどまっている。
くっ! これが可愛いモノに接し慣れているというルナとの女子力の差か!
とそこで、前ぶれもなく腰の後ろに大きな赤いリボンがブワっと生えた。
「うわ! なんか生えた!」
「あらホント」
あたしは赤、ルナは青。
リボン本体は帯のお太鼓くらい大きいし、たれなんかふくらはぎに達するくらい長い。
困惑するあたしに向かってリボンが声を発した。
「アヤだよ、アサヒお姉ちゃん! 一緒にいさせて!」
「アヤちゃん!? そうか、クウミさんの言ってたしっぽって、このことだったのね? そうと分かれば百人力だわ。あたしたちの力で、二人を仲直りさせてあげよう!」
「うん!」
そこに、直上から炎の龍が突っ込んできて、あたしと融合した。
分身の証たる猫耳としっぽ、首輪が消え、代わりにこめかみの位置に一対の龍のツノが生える。
あたしとルナの視線が交差する。
よし、二人そろって決めポーズ!!
「魔法乙女・アサヒ!!」
「魔法乙女・ルナ!!」
「「妖怪退治はおまかせあれ!!」」
バババババァァァァァアアアアアアン!!
あふれる魔力が花火のように派手派手しく飛び散る。
完全体になったせいでか、花火の内容がいつもより多い気がする。
「二人とも……頼んだわよ」
あたしとルナは振り返ってアンコちゃんを見た。
アンコちゃんの顔に、覚悟の表情が浮かんでいる。
「なに不安そうな顔してるのさ、アンコちゃん。心配いらないって。ちょっくら行って、スパーっと片づけてくるからさ」
あたしはアンコちゃんをそこに残し、待ち受ける巨大妖狐に向かって歩いた。
ルナが横を歩く。
「救うよ、ルナ! 誰ひとり不幸になんかさせないんだから!」
「言うと思った。好きになさい。どこまでもついていくから」
「ありがと。……さぁ、二代目魔法乙女の実力を見せつけてやろうじゃないのさ!」
「その案、乗った!」
ルナが笑いながら大きくうなずく。
そしてあたしたちは、上空から睨めつけてくる巨大クウミさんに向かって不敵な笑みを浮かべたのでした。
朝の九時。青い空。白い雲。遠くでトンビが飛んでいる。
実にのどか。……ここ以外は。
そう。あたし、ルナ、モコ太くん、アヤちゃんの四人が見守るなか、アンコちゃんとクウミさんがバチバチと火花を飛ばしていた。
白衣に緋袴、千早と、上から下までバッチリ巫女装束で身を固めたアンコちゃんと、絢爛豪華な花魁の衣装を着込んだクウミさんとが、親の仇でも見るような表情でにらみ合っている。
それにしても、さすが先代の魔法乙女、迫力がハンパない。
空気が震える音が聞こえてきそうな気さえする。
口火を切ったのは、クウミさんだ。
「まずは言いわけを聞こうじゃありんせんか、杏子」
「言いわけ? なんの?」
「とぼけるんじゃありんせんよ! あちきをだまして異界へ封じ込めたことに対して、何か言うことはありんせんのかって聞いてんだい!」
アンコちゃんの眉がピクっと動く。
「……だました? 私が? 私がいつあんたをだましたのよ」
「とぼけるんじゃありんせんよ! 迎えに来ると言ったのは、どこの誰だい! それが、待てど暮らせど迎えに来ねえ。だましたじゃのうて何だってんだい!」
ドドォォォォン……。
いきなり遠くでカミナリが落ちた。
こんなに晴れているのに?
伝説級の妖怪にまでなってしまうと、感情の変化が天候にまで影響を及ぼすってことなのかな。
アンコちゃんはクウミさんの舌鋒をモノともせずに言い返した。
「私は確かに言ったわよ、その時が来るまでここで大人しく待っていなさいと」
クウミさんの頬がヒクっと動く。
ヤバい、ヤバい、めっちゃ怒ってる!
「……じゃあ聞かせていただきんすけど。『その時』とやらは、いつ来るはずだったんでありんすか」
クウミさんの問いに、アンコちゃんは今度は沈黙で返す。
「五百年もとじこめといて、返す言葉もありんせんのかい!」
クウミさんが怒って叫ぶ。
気持ちは分かる。
「まぁでも、五百年は長いよね」
「ちょっと待たせすぎよね」
「そこ、茶化さねえの!」
怒りのほこ先がこちらに向かいそうだったので、慌てて口をつぐむ。
深刻な場に出くわすとつい笑いの虫が騒ぎ出しちゃう。性分だねぇ。
「黙って聞いてりゃ言いたい放題……」
アンコちゃんがゆっくりと顔を上げ、クウミさんをにらみつけた。
「あんたそう言うけどさ、そんな状態のまま解放してやるわけにいかないじゃないの! そのまま現世に出たら、今度こそ退魔師総出で退治せざるを得ないんだよ? だからこっちは、あんたの妖力が自然放出されるのをひたすら待ってさ! なんで私が相棒契約を解除していなかったと思う? いずれ再び、一緒に冒険をしたかったからに決まっているじゃないのさ!」
「遅いんだよ……」
地面を見つつ、低く押し殺したような声でつぶやいたクウミさんは、次の瞬間、アンコちゃんに向かって全力で叫んだ。
「遅いんだよ!!」
ドドドドドドォォォォォォォォン!!
直後、またも雷が落ちて、視界が一瞬真っ白になる。
空を見ると、あちこちに雲がわき出て風に流され始めている。さっきまでのピーカンが嘘みたいだ。
何となく風が湿ってきた気がする。雨が降るのかもしれない。
更なる感情の爆発を必死でこらえているのか、クウミさんが血管が浮き出るほど強く、両手のこぶしをギュっと握りしめている。
そうしてアンコちゃんをにらみつけるその顔は、なぜだかあたしには泣いているかのように見えた。
クウミさんが続ける。
「……もう充分、もう充分でありんす。ならばやはり、主さんたちを倒して現世を残らず平らげるとしんしょう!」
空気が大きく震えた。
見ている目の前で、クウミさんが人間形態から巨大キツネへと変化する。
いや、デカい、デカい、デカい、デカい。
ホント小山。もう、学校の校舎レベル。
巨大化したクウミさんは、大きく口を開くと、あたしたちに向かって燃え盛る巨大な火焔を吐いた。
「全て終わりにしてやりんす!!」
「「「きゃぁぁぁぁあああああ!!」」」
とっさのことに対処できずその場に立ち尽くしたあたしたちは、一瞬で炎に包まれた。
反射的に目をつぶるも、熱波があたしたちを飲みこむことはなかった。
熱くない。おそるおそる目を開く。
「れれれ? なんで?」
『ほっほ。間に合ったようじゃの』
『言うほど余裕はなかったですけどね』
「玄武さま! 青龍さま!」
気づくと、あたしたちを囲むように人間形態の聖獣さまたちが立っていた。
燃えさかる炎の柱の中にすっぽり入ってしまったあたしたちを護るかのようにバリアを張ってくれている。
『とはいえ、あんまりもたねぇぞ!』
『今の弱った私たちでは二撃目を防ぐのは無理よ。最後の力を振りしぼって炎柱を吹き飛ばすから、その隙に変身なさい、魔法乙女!』
「ありがとうございます、白虎さま! 朱雀さま!」
あたしとルナはうなずくと、すばやく変身ポーズをとった。
気合は充分。いくよ!
「「願いかなえたまえ! 変身!!」」
かけ声とともに大きく二回、柏手を打つと、両腕のブレスレットがうなりをあげて回転し始めた。
直後、炎柱が吹っ飛び、聖獣さまたちの姿が薄れて消える。
爆風が駆け抜ける中、あたしの隣にいたアヤちゃんが光と化してブレスレットに吸い込まれた。
「アヤちゃん? アヤちゃん!」
慌てる間もなくブレスレットから炎の龍が飛び出し、あたしの周囲をグルグルと激しく飛び回る。
火の粉があたしに降りかかるたびに、服がみるみる新たな服へと変化していく。
巫女の白衣、膝上二十センチの赤い袴、白のニーハイソックス、そして赤い鼻緒の草履と、いつもの格好になったと思いきや、ここで思いもかけない変化があった。
なんと、白衣の襟元、袖口、袴の裾に真っ白なフリルがあしらわれていたのだ。
まるで、巫女装束風のロリータ服じゃん!
思わず隣のルナに向かって叫ぶ。
「め、めっちゃ可愛くなったんですけど!!」
「相棒を得てパワーアップしたってことなのかしら。うん、悪くないわね」
衣装のバージョンアップに大興奮するあたしに対して、ルナはそこはかとなく満足気な表情を浮かべるにとどまっている。
くっ! これが可愛いモノに接し慣れているというルナとの女子力の差か!
とそこで、前ぶれもなく腰の後ろに大きな赤いリボンがブワっと生えた。
「うわ! なんか生えた!」
「あらホント」
あたしは赤、ルナは青。
リボン本体は帯のお太鼓くらい大きいし、たれなんかふくらはぎに達するくらい長い。
困惑するあたしに向かってリボンが声を発した。
「アヤだよ、アサヒお姉ちゃん! 一緒にいさせて!」
「アヤちゃん!? そうか、クウミさんの言ってたしっぽって、このことだったのね? そうと分かれば百人力だわ。あたしたちの力で、二人を仲直りさせてあげよう!」
「うん!」
そこに、直上から炎の龍が突っ込んできて、あたしと融合した。
分身の証たる猫耳としっぽ、首輪が消え、代わりにこめかみの位置に一対の龍のツノが生える。
あたしとルナの視線が交差する。
よし、二人そろって決めポーズ!!
「魔法乙女・アサヒ!!」
「魔法乙女・ルナ!!」
「「妖怪退治はおまかせあれ!!」」
バババババァァァァァアアアアアアン!!
あふれる魔力が花火のように派手派手しく飛び散る。
完全体になったせいでか、花火の内容がいつもより多い気がする。
「二人とも……頼んだわよ」
あたしとルナは振り返ってアンコちゃんを見た。
アンコちゃんの顔に、覚悟の表情が浮かんでいる。
「なに不安そうな顔してるのさ、アンコちゃん。心配いらないって。ちょっくら行って、スパーっと片づけてくるからさ」
あたしはアンコちゃんをそこに残し、待ち受ける巨大妖狐に向かって歩いた。
ルナが横を歩く。
「救うよ、ルナ! 誰ひとり不幸になんかさせないんだから!」
「言うと思った。好きになさい。どこまでもついていくから」
「ありがと。……さぁ、二代目魔法乙女の実力を見せつけてやろうじゃないのさ!」
「その案、乗った!」
ルナが笑いながら大きくうなずく。
そしてあたしたちは、上空から睨めつけてくる巨大クウミさんに向かって不敵な笑みを浮かべたのでした。