身代わり花嫁は無愛想なエリート外科医(超甘党)からの極甘溺愛を刻まれる
「っ……!」

 まさに図星だ。怒りに満ち溢れているのに何にも言い返せない。

「これ以上娘をバカにするのはやめてくれませんか。うちも暇じゃないんです。営業妨害ですよ」
「あ、遼太郎さん。俺は本当の事を言ったまでですよ? だって小学校からの仲ですもん。詩織ちゃんの事は俺が一番わかっているつもりですし」
「全然わかってない!」

 分かっているつもりになっているだけだ。そんな理解者なフリなんてしないでほしい。
 だが私が大声を張り上げた瞬間、店の扉が遠慮がちに開いた。

「……ざぁす……」

 扉の先にいたのはよく見る客のひとり。大きな黒縁メガネに黒い長袖長ズボンのジャージを身にまとい、黒い不織布のマスクをつけているモサ苦しい男性だ。
 素顔が判別しづらい容姿な上に無口な彼は、私達にとっては非常に印象的な客で、いつも「黒ずくめの人」と呼んでいる。

「ああ、接客の邪魔になるね。じゃあ俺はこれで失礼します。詩織ちゃん、早く俺と結婚しようよ。色々楽になれるよ?」
「っ、もうお帰りください……!」

 ははは……と軽く笑いながら去っていく流を見て、私はほっと肩を落として息を吐いた。はあ、これで面倒な相手をしなくて済む。
 よかった……。どさっと緊張感が一気に解放されて、膝から崩れ落ちてしまいそうになる。すると黒ずくめの人が申し訳なさそうにちらりと私の方を向いた。

「あ――大変だったすね。なんか修羅場ってたと言うか」

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