極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

 リビングでひっそりと泣いたあの日から数日、風の冷ややかさに冬の気配が混ざり始めた頃――。

 きらきらと日差しが降り注ぐ昼下がりを歩いて、私はスーパーへ向かっていた。タワーマンションが立ち並ぶ通りを抜けて30分ほど歩いたところに、リーズナブルで品揃えが豊富なスーパーを見つけたのだ。

 いつでも気軽に行けるような距離ではないけれど、時間があるときは散歩がてらに利用している。マンションの近くのスーパーは洗練されすぎていて、今もやっぱり緊張してしまうから。

 信号が青に変わって、横断歩道を渡る。すると、少し先にスーパーが見えてくる。手提げバッグに入れていたスマホで時間を見る。――あ、ちょっと早いかも。

 今日は週に一度の、ハウスキーパーさんがやってくる日だった。仕事の邪魔をしてはいけないから外出するようにしているのだけど、今から買い物をして、30分歩いて帰っても、ハウスキーパーさんはまだ仕事中だ。

 じゃあ、とまっすぐに進む予定を変更して、右へ曲がってみた。あのスーパーを見つけたのも、こんなふうに時間を余らせていた日だから、今日も何か見つかるかもしれない。

 少し歩くと、サッサッサッと小気味の良い音が聞こえてきた。眼差しを向けると、緑色の屋根の建物の前で、お母さんくらいの年齢のご婦人が箒で落ち葉を掃いていた。すぐに眼差しを外そうとしたけれど、ご婦人とうっかり目が合ってしまった。

 私は気まずい気持ちになったけれど、ご婦人は微笑んで会釈をしてくれた。慌てて、私もぎこちなく会釈を返す。
 そうして今度こそご婦人から眼差しを外して、通りに沿って歩いていく。大通りから逸れたせいか、車通りが少なく静かな道だ。

 もう少し進んだ先に小さな公園を見つけたところで、来た道を引き返した。そろそろ、買い物をして戻ればちょうどいい時間だ。

 スーパーに着いて、特売品コーナーから見て回る。大きめの保冷バッグを持ってきたから、先週よりもお肉とお魚をたくさん買って帰ろう。あ、でも、このバッグにいっぱいいっぱいに詰め込んだら、もしかして重すぎる? 30分歩かなきゃいけないしな――などと逡巡しながら、買い物をした。お肉とお魚の量は結局控えめにした。

 サッカー台で食材を保冷バッグに詰めて、帰ろうとしたところで、壁の掲示板を何となく見た。スーパーの求人票や、地域の情報が掲示されている。バレエ教室発表会のカラフルなポスターや、少年合気道生徒募集の手書きの張り紙など、全体的に地域密着を感じさせる温かみのある掲示板だ。

 そんな中に、緑の屋根を見つけた。色鉛筆のタッチで描かれたそのイラストは、学童施設『みどりのやね』の求人ポスターだった。

 ――さっきのご婦人のところだ。

 しげしげとポスターを見てみた。丸みのある文字で、『調理補助募集』と書いてある。

 子供たちのおやつや、ごはんをつくるお仕事です。子供が好きな方、お料理が好きな方歓迎!

 その文面の下に、募集要項が簡単に記載されていた。雇用形態はパート。未経験者応募可。まずは電話でお問い合わせを。

 しばらくポスターを見つめたあとに、手提げバッグからスマホを取り出す。カメラを起動させて、ポスターの写真を撮った。
< 28 / 77 >

この作品をシェア

pagetop