極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
「さやかさん……」
薄明かりの中、私を見下ろす千秋くんは微笑んでいるけれど、笑い方がいつもと違う。――これは、絶対に寝ぼけている。
こうなったらもう起きてもらわなきゃ――と彼の名前を大声で呼ぼうとしたところで、
「っ……、」
耳たぶにくちびるを押し当てられて、息を呑む。柔らかく湿った感触はそのまま首筋へと移動していく。骨っぽい手のひらが、部屋着の上から私の腰を探る。息を呑んだまま硬直していると、鎖骨の上のあたりを強く吸われた。それと同時に、部屋着の裾から手のひらが侵入してきた。
「ち、……千秋くん!」
彼の胸を思いっきり押した。びくともしなかったけれど、
「……あ、」
千秋くんの表情が変わった。どうやら、ちゃんと目を覚ましたみたいだ。
「すみません!」
千秋くんは青ざめると、飛び跳ねる勢いで後退った。そうして、険しい顔で私から目を逸らす。
「……すみません。殴ってください」
無抵抗に目を瞑る千秋くん。私は乱れた服を整えながら、殴ったりしないよと返した。すると会話が途切れて、ぎこちない沈黙が訪れた。
何とか沈黙を埋めたくて、口をひらく。
「その……初めてじゃないしね?」
だけど、言った瞬間にこれじゃなかったと顔をしかめる。今の沈黙に相応しい言葉は、絶対に絶対にこれじゃなかった。
結果、沈黙が余計にぎこちなくなる。
いたたまれなくなって、ベッドから立ち上がった。項垂れている千秋くんを見て、だけどすぐに目を逸らして、勢いに乗せて言い切る。
「私も、千秋くんの寝顔を勝手に見て可愛いなって眺めちゃったの! だから、おあいこ!」
千秋くんの目を見ないまま、
「ご飯、作ってあるから!」
そう言い置いて、バタバタと逃げるように部屋を出た。