極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
そのあと、遅れてリビングへやってきた千秋くんと、ダイニングテーブルで向かい合って食事を取った。
最初こそ気まずかったけれど、私も千秋くんも気にしないふりを続けたから、夕方にはいつも通りに戻っていた。
だけど――。
夜になって入浴をしていたら、鏡に映った自分の肌に赤い痕がついているのに気づいた。場所は鎖骨の上あたり。千秋くんに吸われたところだ。
そっと指先で触れたら、今になって小さな痛みを感じた気がした。同時に、彼に口づけられたときの、肌の下に電流が這ったような感覚を思い出す。
始まりこそ、一夜の関係を結んでしまった。
だけど、千秋くんと暮らし始めてから1ヶ月半。まるで礼儀正しい同居人のように過ごしてきた。だから、ごく気軽なルームシェアみたいな感覚になっていたけれど。
千秋くんは、『仮初の結婚生活』だと最初に言った。彼は今もあの夜のように、明確に恋人や夫婦として私に触れたいと思っている。それを、否応なく思い知った。
私はどんな顔をして、彼との暮らしを続ければいいのだろう。
入浴を済ませて自室に戻った私は、デスクの引き出しから、婚姻届を取り出した。丁寧に折りたたまれたそれを、ゆっくりとひらく。
いつでも、サインをしてください。いつか――俺のことを好きになってくれたなら。
そう言って渡された婚姻届。美しい筆跡で記された千秋くんの名前に触れて、空っぽのままの妻の欄を見つめる。
――ちがう。まだ、好きじゃないよ。優しくしてもらって舞い上がっているだけ。
ぎゅ、とくちびるを引き結んで、婚姻届をたたみ直した。そのまま、元通りデスクの引き出しに戻す。
千秋くんが優しくしてくれるなら、私を愛してくれるなら、私は私ができる限りのことをやらなきゃ。
だから、明日から始まるお仕事も、家のことも精一杯頑張ろう。