極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
 さつまいもの蒸しパンとヨーグルトサラダは、無事に完成した。子供たちに振る舞ったあとに片付けを行って、明日のメニューを確認する。

「ひとりだけメニューが違うんですね?」

 アレルギーかなと見当をつけて尋ねると、渡辺さんが答える。

「亜弥ちゃんはね、野菜がどうしても得意じゃなくて。ほうれん草のパンケーキは食べてくれないのよ……。アレルギーじゃないみたいなんだけどね」

 今は、苦手なものを無理に食べさせるような教育の仕方はしないし――などと続く渡辺さんの説明を、頷きながら聞く。

 小学二年生の山城亜弥ちゃんは、ほうれん草以外にもにんじんや玉ねぎなど、苦手な野菜が多いらしい。親御さんからはできるだけ野菜も食べさせてほしいという希望があるけれど、亜弥ちゃん本人は食べさせようとすると泣いてしまう。

「どうしたものかなーって私も悩んでて。もし良いアイデアを思いついたら、教えてね」

「は、はい!」

 ぴしっと背筋を伸ばして返事をした。
 信頼してもらえて嬉しい――と思うのは、舞い上がり過ぎだろうか。

 渡辺さんは、18時から提供する夕食の準備に取り掛かる。こちらは、延長預かりの子供たちに振る舞うものだそうだ。

「お疲れさまでした」

 渡辺さんに挨拶をして、調理場を出る。延長預かりの人数が多い場合は、私にも補助をお願いするかもしれないと言われているけれど、今日はもう退勤だ。

 夕やけのオレンジに染まり始めた世界を、軽い足取りで歩く。途中、駅通りに逸れるとビルの中に書店があるので、そちらに寄り道した。その後、リーズナブルなスーパーにも寄って、夕食用の食材を見て回っていたところで。

 通路の向こうに、隼人らしき男性の姿を見た。

 は、として足を止めた。その男性はレジ袋を両手に持って、自動ドアから外に出ていった。

 ドクドクと低く響く心音のさなかで、他人の空似かな、と思い直す。

 だって、隼人の結婚後の新居はこのあたりじゃないはずだし。
 気にしない、気にしない。もう、あんな奴のことなんて気にしない。

 自分に言い聞かせながら、店内を回って必要な食材をカゴに集める。
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