極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
「仕事はどうでしたか?」
ただいまの次に、千秋くんはそう言った。
「ちゃんと働けたと思う。施設のひともみんな親切だったし」
そう答えながら、真っ先に私を気に掛けてくれたことに対して、嬉しいと思う。千秋くんこそ、仕事が大変な状況なのに。
ジャケットを脱いでネクタイを緩めながら、
「それなら良かった」
と、千秋くんは笑った。隣をすれ違って、自分の部屋へ向かう千秋くんの襟元から、ほんの少し甘いラストノートが香る。
千秋くんが着替えている間に、パスタをゆでた。お皿に盛り付けているところで、千秋くんがリビングにやってくる。
「美味しそう」
柔らかな笑みを浮かべて、パスタのお皿を運んでくれる。スープ皿によそったスープも、千秋くんが運んでくれた。私はカトラリーを用意して、ダイニングテーブルへと向かう。
テーブルに向かい合って食事をとる。他愛のない雑談の隙間に、「仕事は大丈夫?」とさりげなく聞いてみた。
「ええ、何とか」
と、千秋くんは答えた。だけど、微笑みを浮かべた眼差しに疲労が過ったように思えた。
「その、無理してない? 私は千秋くんの仕事のこと何にもわからないし、偉そうなことは言えないけど……」
そう前置いて、おずおずと続ける。
「頑張りすぎてないかなって、ちょっと心配で」
千秋くんはカトラリーを動かす手を止めた。思い詰めるように視線を揺らして、どこか重たげな声で呟く。
「そう見えるのかな」
え、と目を見ひらく私に、千秋くんは続けた。
「高峰にも言われました。おまえは無理をしているって」
「えっと、それなら……もう少し休んだりとか」
控えめに提案しようとしたところで、千秋くんが言った。
「俺が完璧じゃないと、両親が間違っていたことになるので」
「……えっ?」
唐突に出てきたご両親の話に、戸惑う。次の言葉を選びかねていると、千秋くんがはっとしたように目を瞬いた。
「……いえ、何でもありません。今のところ、俺は大丈夫です」
千秋くんは、打って変わっていつも通りの顔で笑った。カトラリーを動かすのを再開しながら、声もいつも通りに続ける。
「紗夜香さんが作ってくれる食事に支えられています。体調も、本当に悪くないんですよ。ああもちろん、紗夜香さんも働いているし、無理はしないでくださいね」
そんなふうに笑う千秋くんに、何故だかどうしようもなく不安になった。
千秋くんは、何か重たい事情をひとりで抱えている――そんなふうに思えて。